愛知室内オーケストラ挑戦の記録
Vol.3 愛知で育まれる新たなる伝統

愛知室内オーケストラ挑戦の記録

Vol.3 愛知で育まれる新たなる伝統

text by 池田卓夫(音楽ジャーナリスト@いけたく本舗®︎)
写真提供:愛知室内オーケストラ

「母校」の愛知県立芸術大学と初の合同演奏会

愛知室内オーケストラ(ACO)の公式プロフィールは「2002年に愛知県立芸術大学出身の若手演奏家を中心に発足」の一文で始まる。この連載取材を通じ、主要メンバーの話を聞くにつけ、“(愛知)県芸愛”の強さをひしひしと感じてきた。2021年9月16日、名古屋市のしらかわホールでは初の「愛知県立芸術大学×ACO合同演奏会」が開かれた。指揮は昨年から愛知県芸非常勤講師を務める若手、松本宗莉音(シューリヒト)。

まず、愛知県立芸術大学とそのオーケストラの歴史を簡単に振り返る。愛知県芸は音楽学部、美術学部を備えた日本初の公立芸術大学として1966年(昭和41年)に発足した。同様の体制を整えた京都市立芸術大学より、3年先んじた。管弦楽団は1990年4月に創立、2015年3月まで四半世紀の間、外山雄三(現愛知県芸名誉教授)の厳格な指導を受け、常設オーケストラ並みの力量と評価を得てきた。京都市芸、愛知県芸、国立音楽大学(東京)の教授を歴任した作曲家、北爪道夫(現名誉教授)も「少なくとも私の在籍当時、愛知県芸の学生オケが圧倒的に秀でていたと記憶します」と証言する。近年は飯守泰次郎、大友直人、尾高忠明、松尾葉子、高関健、ユベール・スダーンを歴代客員教授として迎え、毎年11月の定期演奏会に臨む。1993年生まれの松本は2020年に非常勤講師となり、定期演奏会などの副指揮者を兼ねる。それまで縁もゆかりもなかった愛知県芸に来て彼が驚いたのは「指導する先生たちの素晴らしさ」であり、「付きっきりで鍛え、時としてとてつもないパワーを発揮するオーケストラに育てている」実態だったという。

プロ楽団との合同演奏会は過去2回、名古屋フィルハーモニー交響楽団と愛知県芸術劇場コンサートホールで行ったが、ACOとは今回が初めて。愛知県芸出身のトロンボーン奏者で現在はACOのスポンサーである医療法人・葵鐘会(きしょうかい)に勤務し、ACO事務局員を兼ねる片山直樹に企画の背景を聞いた。「合同演奏会が葵鐘会特別協賛の『ベルネット』の枠で始まった背景には『長期の視点で人材を育てよう』という山下守理事長(ACO経営アドヴァイザー)の意向があります。愛知県芸の卒業生母体のACOはまだ若く、知名度も低い。ならば学生とプロが一体で何か新しいものを生み出していこうと考え、合同演奏会を企画しました。今後も初回と同じく学内で選抜した学生ソリストの協奏曲を交え、オーケストラと個人の両面で若手を支援するシリーズに発展させるつもりです」。

シューマンの交響曲第3番《ライン》を演奏する松本宗莉音と愛知室内オーケストラ&愛知県立芸術大学合同オーケストラ

しらかわホールの本番当日にも多くの教授、准教授がゲネプロ(会場総練習)から立ち会い、学生たちの相談に乗ったり、ACO楽員や松本と意見を交換したりする。ヴァイオリンの福本泰之教授は「母体である愛知県芸の学生と卒業生中心の地元オーケストラの交流は理想というか、本来あるべき姿といえ、さらなる発展を望みます」、チェロの花崎薫教授は「生徒たちが年齢的にも遠くない、場合によっては在学期間が重なる“憧れの先輩”と一緒に演奏できる喜び、教育効果は大きいです。できれば、ヨーロッパのオーケストラのようなアカデミー制度に育ってほしいですね」と言い、合同演奏の今後に期待を寄せる。

育まれ、受け継がれる愛知の響き

演奏会の曲目はモーツァルトの歌劇《魔笛》序曲、ドヴィエンヌのフルート協奏曲第7番(独奏:西浦千陽=4年在学中)、ダーヴィドのトロンボーン協奏曲(独奏:秋口響哉=4年在学中)とシューマンの交響曲第3番《ライン》。アンコールは弦楽合奏で、モーツァルト《ディヴェルティメント》K.136より第3楽章。ゲスト・コンサートマスターを務めた森下幸路(大阪交響楽団首席ソロ・コンサートマスター)は「学生時代から53歳までアッという間でしたが、色々な人との出会いがあって今がある。今日のコンサートは宗教儀式ではなくてパーティーなのだから、うんと弾けましょう」と皆を励ました。

ヴァイオリンの桐山健志教授も「学内でオーディションを実施して協奏曲のソリストを選ぶのは名古屋フィルとの共演でも行いましたが、その時はヴァイオリンでした。今回のフルート、トロンボーンは斬新です」と指摘する。当初はピアノを想定したが日程的に折り合わず、「管打楽器コースでオーディションを実施、フルートとトロンボーンの学生が合格したのです」と、フルートの橋本岳人准教授が明かす。とりわけトロンボーンの登場は珍しい。トロンボーンの倉田寛教授は「トロンボーンが選ばれるのは稀で、大きな励みです。ACOの皆さんが温かく包み込んでくださる姿を目の当たりにして、卒業生は最高の応援団だと思いました。合同演奏を今後もぜひ、続けてください」と、喜びを隠さない。

ドヴィエンヌのフルート協奏曲第7番を演奏する西浦千陽

ソリスト2人の話も聞いた。フルートの西浦は「愛知県芸の先輩たちから色々とアドバイスを受けながら大好きな曲を演奏でき、本当にうれしいです」、トロンボーンの秋口は「在学中にオーケストラと協奏曲、しかも松本先生のわかりやすい指揮で独奏させていただいたことは僕の人生の中で、極めて重要な経験になると思います」と、それぞれ緊張の面持ちで語った。確かに、棒を持たず長い腕と大きな手を表情豊かに動かして「拍」ではなく「フレーズ」を指示、「金管のコラールが十分宗教的に響くので、弦楽器はもう少し人間の温かさを出せませんか?」など、具体的イメージを伝える松本の指揮は明快。《ライン》交響曲の原典版を隅々まで生き生きと再現し、新鮮な感覚に満ちていた。

終演後、音楽学部長の安原雅之教授(音楽学)は「ACOとの合同演奏という新しい活動の場が生む教育効果の大きさを確認しました。現役の学生には大変ありがたい企画で、大学オーケストラの今後にも役立つと思います」と、初回の成果を評価した。ACO事務局の片山も「チケットの売れ行きも含めて予想以上の成果でした。大学は少し遠い場所(長久手市)にあり、外部との交流が限られるので、ACOとの交流が与える刺激は大きいはずです。自分の在学中にはなかった試み、トロンボーンの秋口君はかつての教え子でもあり、ちょっと羨ましくなってしまいました」と話す。

ダーヴィドのトロンボーン協奏曲を演奏する秋口響哉

ACOフルート奏者で愛知県芸出身の世良法之は「やってみて、同窓の良さを痛感しました。最初は必ずしもオーケストラを意識しなかった学生も、こういう機会を授かれば入団オーディションを受けてみようといった意欲が湧くのではないでしょうか」と、合同演奏の効用を指摘する。もし、この「お互いの顔がわかるサイズの交流」をしらかわホールで10年間続けることができるとしたら、愛知県立芸術大学管弦楽団と愛知室内オーケストラ連携の「アカデミー」運営も夢ではない――と思わせるだけの手応えは確かにあった。

Vol.4につづく

愛知室内オーケストラ チケット発売情報

ストラヴィンスキー没後50年記念コンサート Part 1

2021年11月8日(月)18:45 開演(17:45 開場)
愛知県芸術劇場コンサートホール

指揮:山下一史

ストラヴィンスキー:八重奏曲
ストラヴィンスキー:協奏曲《ダンバートン・オークス》
ストラヴィンスキー:管楽器のための交響曲(1920年版)
ストラヴィンスキー:弦楽のための協奏曲《バーゼル協奏曲》
ストラヴィンスキー:3楽章の交響曲

公演詳細:https://www.ac-orchestra.com/211108ストラヴィンスキー没後50年記念コンサートpart1

S席:3,500円
A席:3,000円
B席:2,000円​
U25席(25歳以下):1,000円
U25席は愛知芸術文化センタープレイガイド・しらかわホールチケットセンターのみ取り扱い

愛知県芸術文化センタープレイガイド:052-972-0430
アイ・チケット:0570-00-5310
しらかわホールチケットセンター:052-222-7117
チケットぴあ:https://t.pia.jp/

愛知室内オーケストラ公式HP:https://www.ac-orchestra.com

最新情報をチェックしよう!