愛知室内オーケストラ挑戦の記録
Vol.6 鈴木優人と福川伸陽がオーケストラに広げた「バディ」の輪

愛知室内オーケストラ挑戦の記録

Vol.6 鈴木優人と福川伸陽がオーケストラに広げた「バディ」の輪

text by 池田卓夫(音楽ジャーナリスト@いけたく本舗®︎)
写真提供:愛知室内オーケストラ 

ワークショップ形式で進められるリハーサル

2021年12月9日、名古屋市の三井住友海上しらかわホール。愛知室内オーケストラ(ACO)は、バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)首席指揮者や読売日本交響楽団クリエイティヴ・パートナーなどの指揮活動だけでなく、チェンバロ&オルガン奏者、作曲家としてもマルチに活躍する鈴木優人と、NHK交響楽団首席奏者時代に「日本屈指のホルン奏者」との評価を固めた福川伸陽のふたりを招いた特別演奏会を開催した。

ともに1981年生まれ。2021年にはモーツァルトの『ホルン協奏曲全集(第1-4番とロンド)』のディスク(キングレコード)をリリースするなど、ふたりは長年の共同作業を通じて「バディ(相棒)」の間柄にあり、何よりオープンで自由なパーソナリティーを共有する。ACOとの初共演でもリハーサル初日から一見さんの他人行儀、スペシャリストの上から目線は皆無。ACOの若い同僚たちと様々な意見やアイデアを交換しながら同じプラットフォームのうえで音楽をつくり、バディの輪を広げていった。

「日本には“常設の室内オーケストラが少ない”と言われますが、実際には岩城宏之さんが熱い想いを込めて組織したオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)やBCJなど、独自の方針を掲げ、息長く活動している団体が存在します。ACOにもそうしたエネルギーを感じますし、まだ伸び盛りの時期に立ち会えたのは大きな喜びです。初共演なのに、僕がどう勝手に求めても動じず、お互いに遠慮なく、フランクに付き合えました。なにより、“良いオーケストラにしたい”との思いを全員が共有していることは素晴らしいと思います」と優人(父の雅明、叔父の秀美も同業者のため、以下はファーストネームで記す)はACOとの共同作業に手応えを感じていた。

ゲスト・コンサートミストレスの石上真由子も「3日間のリハーサルを通じて全員が自由に解放され、モーツァルトとハイドン、ブラームスの様式の違いに対するアプローチの切り替えにも柔軟に対応できるようになりました」と、積極的に意見を交わしながらひとつのものをつくり上げていく優人のワークショップ形式の効用を認める。

ホルン・セクションと意見交換する鈴木優人

「ちょっとした指示で雰囲気がサッと変わる」

ソリストを務めるだけでなく、ACOホルン・セクションへのアドヴァイスも行った福川は「一緒にやっていて、楽しいのです。すごく反応が良くて、ちょっとした指示で雰囲気がサッと変わる。ホルン・セクションとは長い時間を一緒に過ごして、たくさん意見を交換しました。いやあ、若いって凄いです。常設オーケストラにもかかわらず、良い意味でフェスティヴァル・オーケストラのような熱気を感じました。先輩面して言うわけではありませんが、とにかく“伸びしろ”のあるアンサンブルで、今後もどんどん変わっていくのが楽しみです」と、初共演の感触を語る。

ACOのファースト・ホルンを担う向なつきは約3週間前、11月12日のACO演奏会『豊嶋泰嗣プロデュース〜バロックから古典派〜弾き振りによる名手たちとの協演』(しらかわホール)で初めてピリオド(作曲当時の仕様の)楽器のナチュラル・ホルンに持ち替え、今回の優人&福川との共演でも引き続きナチュラル管を吹いた。福川自身はモーツァルトの協奏曲のソロにモダン(現代仕様)のバルブ・ホルンを使用したが、ナチュラル管の扱いについても、向に多くのアドヴァイスを授けたという。向は「私から見れば福川さんは本当に雲の上の存在です。技術はもちろんのこと、音楽も自然で、挑戦的にクラシック音楽の新しい扉をどんどん開いていく福川さんの姿を眩しく眺めてきました。今回ご一緒して、要所要所でアドヴァイスをいただきながら、絶妙な遊び心まで感じさせてくださったので、本当に感謝しています」と共演の喜び、収穫を打ち明けてくれた。

ホルン・セクションのメンバーと福川伸陽

若き音楽家たちが共有する「フィルハーモニー」の精神

優人がいかに真剣にACOとの初共演をとらえていたかは前半の2曲目、モーツァルトのホルン協奏曲第1番のために用意した「字幕」にも、はっきりと現れていた。モーツァルトは盟友のホルン奏者ヨーゼフ・ロイトゲープに作品を捧げる際、スコアの随所にイタリア語の「かなりヤバい」ニュアンスの文言を書き込んだ。鈴木は「可能な限り上品に、でもイタリア語のわかる方には思いっきり笑える」かたちの伊日対訳をこの演奏会のために自身で書き上げ、演奏中のオーケストラ後方に投影した。これは本当に「ヤバおもしろい」内容で、福川の遊び心に富む自由自在のソロに最上の背景を与えた。

舞台後方に楽しい字幕が映し出される

本編の最後に演奏されたブラームスの《ハイドンの主題による変奏曲》は、晴れやかな高揚感に満ちた仕上がりだった。どこまでも柔らかくニュアンス豊かに響く弦、自身の「歌」を心ゆくまで奏でる管のソロのそれぞれが十二分に音楽を感じ、フィルハーモニーの世界を現出させた。アンコールは同じ作曲家の《ハンガリー舞曲》第4番。ホルンに福川が加わり、中間部では上手(舞台右側)後方のチェンバロに優人が駆けつけると、管楽器がピーヒャラピーヒャラ、ほとんど民族音楽アンサンブルの様相を呈する。優人の遊び心が爆発した編曲に客席は驚き、熱狂した。その場にいた全員がひとつになっていた

一瞬、昔話にお付き合いいただきたい。2002年11月10日、大阪の住友生命いずみホール『ウィーン音楽祭 in OSAKA 2002』のガラ・コンサート。クリスティアン・アルミンク指揮関西フィルハーモニー管弦楽団や、ウィーン・フィルの名コンサートマスター(当時)ヴェルナー・ヒンク率いるウィーン弦楽四重奏団などが出演したコンサートの最後、関西フィルの弦のトップにウィーンの4人が座る合同演奏が行われた。曲は愛知と同じく《ハイドンの主題による変奏曲》だった。ヒンクらウィーンの名手たちは関西フィルの楽員を「コレーゲ=同僚」と呼んだ。ウィーンだろうと関西だろうとフィルハーモニーはフィルハーモニー、ギリシャ語で「フィル=愛する」と「ハーモニー=調和」を合わせた語源のままの態度だった。ACOに溶け込んだ優人、福川もまた、ヒンクたちと同じようにフィルハーモニーの精神をとことん発揮していた。

福川も加わってのアンコールは大いに盛り上がった
Vol.7につづく

愛知室内オーケストラ公演情報

第31回定期演奏会 音楽監督就任披露公演

2022年4月16日(土)開演14:00(開場13:15)
三井住友海上しらかわホール

指揮:山下一史
ピアノ:三浦謙司

ブラームス:《大学祝典序曲》
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番 ハ短調
シューマン:交響曲第2番 ハ長調

公演詳細:https://www.ac-orchestra.com/20220416-aco31


第32回定期演奏会 オール R. シュトラウス プログラム Part.1

2022年4月30日(土)開演14:00(開場13:15)
三井住友海上しらかわホール

指揮:山下一史
オーボエ:山本直人

R.シュトラウス:歌劇《インテルメッツォ》から4つの交響的間奏曲
R.シュトラウス:オーボエ協奏曲 ニ長調
R.シュトラウス:付随音楽《町人貴族》(1920年組曲版)

公演詳細:https://www.ac-orchestra.com/20220430-aco32

SS席:6,000円
S席;4,500円
A席:3,500円
B席:2,500円​
U25席(25歳以下):1,000円

愛知県芸術文化センタープレイガイド:052-972-0430
アイ・チケット:0570-00-5310 http://clanago.com/i-ticket
しらかわホールチケットセンター:052-222-7117
チケットぴあ:https://t.pia.jp/

愛知室内オーケストラ公式HP:https://www.ac-orchestra.com

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