若き俊英と地域ホールが問うクラシック音楽のこれから
箕面市立メイプルホール 坂入健司郎×大阪交響楽団
ブラームス交響曲全曲演奏会

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若き俊英と地域ホールが問うクラシック音楽のこれから

箕面市立メイプルホール 坂入健司郎×大阪交響楽団

ブラームス交響曲全曲演奏会

text by 八木宏之

坂入健司郎がブラームスとともに箕面に帰ってくる

坂入健司郎が大阪交響楽団とともに、大阪府の箕面市立メイプルホールに帰ってくる。しかも今回は3年にわたるブラームス交響曲全曲演奏会というビッグ・プロジェクトである。

2021年6月25日、2度の延期を乗り越えてようやく実現した坂入とヴァイオリニストの石上真由子、大阪交響楽団によるベートーヴェン・プログラムのチケットは完売となり、坂入の関西プロ・オーケストラ・デビューを見届けようと全国各地から熱心な音楽ファンがメイプルホールに集った。坂入のうねるようなベートーヴェンは大きな熱狂を巻き起こし、その鮮烈なデビューが今回のブラームス・ツィクルスに繋がった。ブラームス・ツィクルスでは、リハーサルから本番まで全てのプロセスをメイプルホールの大ホール(501席)で行い、指揮者、オーケストラ、ホールが一体となってこのプロジェクトを作り上げていく。

ブラームスの交響曲には多様な側面があって、それを眺める角度によって作曲家のさまざまな顔が見えてくる。それはときにベートーヴェンの正統的後継者の顔であり、またあるときは新ウィーン楽派へと繋がっていく「進歩主義者ブラームス」の顔でもあるだろう。坂入が今回のツィクルスに与えたテーマは「ドイツ・オーストリア音楽とは何か」というものだ。そしてその問いのなかでブラームスはどう位置づけられるのかということがこのツィクルスの核心となる。ツィクルスは全4公演で構成され、ブラームスの交響曲が番号順に演奏される。坂入はブラームスの交響曲とあわせて、ドイツ・オーストリア音楽の誕生と発展における重要な作品を私たちに提示する。

坂入健司郎

第1回(2022年9月15日)は、ブラームスがベートーヴェンへの畏怖から、完成までに21年もの歳月を費やした交響曲第1番に、モーツァルトの《魔笛》序曲とシューベルトの交響曲第5番というプログラム。最晩年のモーツァルトが作り上げたドイツ語オペラ(歌芝居・ジングシュピール)《魔笛》は、イタリア音楽から多大な影響を受けていた18世紀末のウィーンにおいて「ドイツ音楽」誕生の産声となった。また純ウィーン音楽の始祖というべきシューベルトの交響曲第5番も今回のツィクルスのテーマにふさわしい作品だろう。

第2回(2023年4月28日)は、ベートーヴェンのプレッシャーから解放されたブラームスがひと夏で完成させた交響曲第2番に、同じ調性を持つモーツァルトの交響曲第35番《ハフナー》を組み合わせた。コンサートの冒頭を飾る《真夏の夜の夢》序曲も「メンデルスゾーンはドイツ音楽を語るうえで欠かすことのできない存在」という坂入の思いを反映した選曲だ。

第3回(2023年9月~10月を予定)は、ブラームスの晩秋を強く感じさせる交響曲第3番をメインに、同じくブラームスの《ハイドンの主題による変奏曲》とハイドンの交響曲第88番《V字》が演奏される。ブラームスが変奏曲で用いた主題はハイドンの真作ではないものの、ブラームスの「古典精神」を感じさせる美しいプログラムである。

そうしたブラームスと「過去」とのつながりをより強く意識したのが最終回(2024年4月~5月を予定)の交響曲第4番とJ.S. バッハという組み合わせだ。パッサカリアの形式で書かれた交響曲第4番の最終楽章は、ブラームスのバッハに対するオマージュであり、フリギア旋法を用いた第2楽章もいにしえの時代を強く思い起こさせる。この交響曲とバッハの作品は最高のマリアージュと言えるだろう。

石上真由子©︎Takafumi Ueno

バッハとブラームスの間には、坂入の盟友石上真由子が登場し、ドヴォルザークのヴァイオリン協奏曲を演奏する。2021年6月のベートーヴェンでも渾身の演奏を聴かせた両者が今回選んだドヴォルザークは、ブラームスを敬愛し、その音楽に多大な影響を受けた作曲家だ。次の世代、そしてドイツ・オーストリアの外へと受け継がれていくブラームスの美学と様式をこの協奏曲に聴くことができるはずだ。

今回のツィクルスでは、聴衆と坂入の交流の場である「マエストロ・サロン」や音楽評論家の奥田佳道氏がナビゲートする「ゲネプロ見学会」など、充実した関連イベントも予定されている。大阪郊外の地域ホールである箕面市立メイプルホールが若手音楽家とともに、全国の音楽ファンへ向けて発信するこのプロジェクトは、日本のクラシック音楽文化のこれからを考えていくうえでも重要なものとなるだろう。FREUDEは引き続き、箕面発のエネルギッシュな試みに注目して、その意義や成果を掘り下げていく。

大阪交響楽団 ©︎飯島隆

公演情報

《身近なホールのクラシック》ブラームス交響曲全曲演奏会
箕面市立メイプルホール 大ホール
坂入健司郎(指揮) 大阪交響楽団

Vol.1 2022年9月15日(木)
モーツァルト:歌劇《魔笛》序曲
シューベルト:交響曲第5番 変ロ長調
ブラームス:交響曲第1番 ハ短調

Vol.2 2023年4月28日(金)
メンデルスゾーン:《真夏の夜の夢》序曲
モーツァルト:交響曲第35番 ニ長調《ハフナー》
ブラームス:交響曲第2番 ニ長調

Vol.3 2023年9月~10月
ブラームス:《ハイドンの主題による変奏曲》
ハイドン:交響曲第88番 ト長調《V字》
ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調

Vol.4 2024年4月~5月
J.S. バッハ/ストコフスキー編:平均律クラヴィーア曲集 第1巻-第24番 前奏曲
ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調(ヴァイオリン独奏:石上真由子)
ブラームス:交響曲第4番 ホ短調

公演詳細:https://minoh-bunka.com/2022/03/29/2022-2024brahmssymphony/

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