川井郁子とオーケストラ響~ひびき~が織り成す
あらゆる垣根を越境した“別世界”

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川井郁子とオーケストラ響~ひびき~が織り成す

あらゆる垣根を越境した“別世界”

text by 東端哲也

2023年9月9日、ニューヨークの音楽の殿堂のひとつ、ジャズ・アット・リンカーン・センターのフレデリック・P・ローズ・ホールで、ヴァイオリニストの川井郁子が率いる和楽器奏者陣と現地のオーケストラによるコラボレーションにより『IKUKO KAWAI with Orchestra HIBIKI ~East meets West~』公演が開催され、現地の観客から絶賛を浴びる成功を収めた。この「オーケストラ響~ひびき~」は彼女が、デビュー当初から活動のテーマとしてきた“越境(unframed)”を体現するプロジェクトで2022年の結成。同年6月Bunkamuraオーチャードホールでのデビュー公演は和楽器界など各方面から高い評価を受け、2023年3月に発売された1stアルバム『響-HIBIKI-』も大きな反響を呼んだ。

現在、川井郁子は10月7日大阪(新歌舞伎座)を皮切りに『NY公演凱旋記念コンサート』ツアーを開催中。11月23日愛知(ウインクあいち)に続いて、2024年1月7日には始まりの地であるBunkamuraオーチャードホールのステージにスペシャルゲストである林英哲(和太鼓)を伴って登場する。広く音楽ファンから期待を集めるこのコンサートを控えた彼女に、本番への意気込みなどを伺った。

川井郁子

若き和楽器の名手たちと臨んだニューヨーク公演

和・洋楽器の混合編成による「オーケストラ響」の核となるのは、日本を代表する若手の和楽器演奏家たち。篠笛・能管の藤舎推峰や尺八の小湊昭尚を筆頭に、箏、琵琶、小鼓、大鼓、笙、篳篥の名手たちが名を連ねる。思えば川井郁子はキャリアの初期段階から、西洋楽器の代表格であるヴァイオリンと日本人の根底に流れる和楽器の音色を融合させ、国境やジャンルといったあらゆる垣根を越境するオリジナリティ溢れる音楽性を追求してきた。

「2ndアルバム『ヴァイオリン・ミューズ』(2001年)収録の〈エターナリィ〉というオリジナル曲を書いていたとき、サビの部分で“ここは尺八でなくては”と強く感じて、実際に入ってもらったらストンと腑に落ちたんです。以来、ヴァイオリンと対峙する楽器として和楽器を選ぶことが多くなりました。“クロスオーヴァーに挑戦してみよう”と思って始めたわけではなくて、私が必然的に求めているものが和の音だったんですね。

ただ、最初の頃は名人と呼ばれる方でも、音程もリズムも楽譜も全て和洋で違うものですから、クラシックとのコラボは至難の業で、シンプルなことをお願いするのも“通訳”のような方がいないと通じなくて大変でした。でも時代を経て、子どもの頃からいろんな音楽を聴いて育っている世代ばかりになってきたので、最近は垣根なく一緒に演奏できるようになりました。メンバーも奏者の紹介で自然と若手の実力派が集まってくれて、どんどん求めていた音が揃ってきた。それで昨年6月の私のデビュー20周年記念コンサートでお披露目して、すごく手応えがあったので年末にアルバムを作り、2回の国内演奏会を経てニューヨーク公演に挑みました」

ニューヨーク公演では、葛飾北斎の浮世絵や桜、能、そしてダンサーなど、最新の映像技術(ホログラムやプロジェクションマッピング)を駆使した演出による、音楽とダイナミックな立体映像が壮大なロマンを描き出すステージのヴィジュアルも好評だった。またウクライナ合唱団がゲストで出演し、平和の響きで祈りを捧げるような場面なども感動を呼んだという。

「公演日が9・11の直前だったこともあって“祈り”もひとつのテーマでした。ラヴェルの《ボレロ》をヒントに書いた新曲の〈花火〉では、実際にプロジェクションマッピングを使って舞台上でいくつもの花火を打ち上げたんです。西洋と違って日本の花火には慰霊や魂を天に戻す意味があることを字幕でも補足し、鎮魂の想いを込めて演奏しました。

ヴィジュアル面にも本当にこだわって、この曲にはこんな場面をとアートディレクターの方にお願いして。特にムソルグスキーの名曲を翻案した〈展覧会の絵~日本の情景~〉では、北斎の『富嶽三十六景』など様々な名画が躍るように軽快にスクリーンに映し出されて圧巻でした。聴衆の反応もよくて、私も響のメンバーも高揚感に包まれ、公演を実現させるまでの困難も報われた気がして、みんなとのチームワークの絆がより強くなったのを感じました」

ニューヨーク公演での一コマ

和太鼓の“レジェンド” 林英哲とともに凱旋

今回の『凱旋記念コンサート』ツアーでも、レギュラーである和楽器奏者チームと管弦楽団のコラボによって「オーケストラ響」が結成された。1月7日の東京公演には、作・編曲にも長けた人気ハープ奏者の朝川朋之や、唯一無二の“声”を持つインド出身のヴォーカリストteaといった川井郁子の信頼あついミュージシャンも参加。そしてこの日限りの特別ゲストとして、日本が世界に誇る和太鼓奏者の林英哲が加わるのも大きな注目ポイントである。

「林英哲さんとは今年の4月に、ブルーノート東京で(オーケストラ響の編成をギュッと凝縮した特別編成の)アンサンブル響のライヴを行った時が初めての共演でした。私をはじめメンバーの誰もが憧れる“レジェンド”の登場にみんなもう大興奮で、しかも結局、すべての曲に参加していただいて最高の太鼓を聴かせてくれました。今回もほぼ全曲でのフィーチャーを予定していますので、どうかご期待ください」

林 英哲 ©︎K.Kurigami

公演を彩る数々の名曲たち

東京公演のプログラムは基本的に、ニョーヨークや既に開催した大阪と愛知のラインナップを踏襲するものだが、詳細はまだ検討中とのこと。少なくとも林英哲の太鼓が加わることで、全ての楽曲のサウンドがグレードアップするのは間違いない。ここでは先述したオーケストラ響の1stアルバム『響-HIBIKI-』なども参考に、恐らく当日この曲は外せないだろうと予想される“必須”楽曲について、本人に聴きどころなどを語っていただこう。

予定されているのは川井郁子の“代名詞”ともいえる〈恋のアランフェス~レッド・ヴァイオリン〉。ロドリーゴの《アランフェス協奏曲》を独自の感性でアレンジした本曲は2000年リリースのデビュー・アルバムをはじめ、これまでに何度となくもレコーディングされコンサートでも定番の人気曲である。

「ロドリーゴによってベースの部分はしっかりと完成されているので、あとはそれをどう効果的に聴かせるかが毎回の課題ですが、今回はオーケストラ響によってさらなる驚きの進化を遂げました

また、アルバム『響-HIBIKI-』で、力強い和太鼓のソロが印象的な〈~Introduction~〉に導かれるようにして流れ出すオリジナル曲〈赤い月〉は、特に注目曲。

「もともと“戦(いくさ)”をイメージして書いた曲なので、林さんの勇ましい太鼓が予想以上にハマりそうです!」

川井郁子の衣装も見どころのひとつ

フィギュアスケートの羽生結弦選手が演技で使用したことで知られる〈ホワイト・レジェンド~白鳥の湖より〉も、teaのヴォーカルやお囃子のかけ声が加わり、篳篥などが幽玄に響き渡る今回のヴァージョンは必聴。『源氏物語』をモチーフに、琵琶の音や雅楽と共に“雅(みやび)”な世界が再現される〈夕顔〉も聴き逃せない。

「儚げながら可憐で謎めいた“夕顔”というキャラクターにとても魅力を感じます。他にも『源氏物語』は表現したい感情の宝庫ですね。特に強い嫉妬のあまり生霊と化す六条御息所のような、ふだん抑えているからこそ、心の奥底で熱く燃えたぎる想いにすごく惹かれます。〈さくら〉を演奏した時も、従来の古謡が持つイメージを覆すような、日本女性の秘めた“パッション”をニューヨークの聴衆に伝えられたらいいなと思ったのです」

明智光秀の娘で、細川忠興の正室として壮絶な最期を遂げたキリシタン女性、細川ガラシャを題材にした(企画、原作、演出、音楽、出演のすべてをひとりで手掛け2021年12月に東京と大阪で上演して成功を収めた)音楽舞台からは〈哀しみのグラツィア〉〈インスティンクト・ラプソディー〉〈時の彼方(かなた)に〉の3曲を披露。

「特に〈時の彼方に〉は、『散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ』(散りどきを心得てこそ、花も人も美しい……)という辞世の句を詠んだガラシャの心情に重なる曲です。彼女の気高さを、今回も音楽と映像とで表現したい

もちろん〈展覧会の絵〉も〈花火〉も必見。“情熱”のヴァイオリニスト川井郁子のこれまでの集大成であり、未来に向けた新たな始まりのステージでもあるに違いない。

「人類最古の楽器といわれるプリミティヴな太鼓の調べと共に、オーケストラ響とヴァイオリンが皆さんを別世界に誘います!」

公演情報

川井郁子 with Orchestra 響
NY公演凱旋記念コンサート
~East meets West~

2024年1月7日(日)14:00
Bunkamura オーチャードホール

川井郁子(ヴァイオリン)
林英哲(太鼓/スペシャルゲスト)
オーケストラ響~ひびき~<管弦楽と和楽器による>
藤舎推峰(篠笛・能管)
小湊昭尚(尺八)
中井智弥(箏)
長須与佳(琵琶)
住田福十郎(小鼓)
望月左太助(大鼓)
大塚惇平(笙)
三浦元則(篳篥)
朝川朋之(ハープ)
tea(Voice)
安部潤(キーボード)
クリストファー・ハーディ(パーカッション)
シンフォニックオーケストラ

演奏予定曲:
レッド・ヴァイオリン~恋のアランフェス~
リベルタンゴ
アヴェ・マリア
夕顔~「源氏物語より」~
道~「紡ぐプロジェクト」テーマ曲~
ふるさと
ひまわり
ホワイト・レジェンド~「白鳥の湖」より~
ジュピター
ほか
※曲目は変更になる場合がございます。

公演詳細:https://tickets.kyodotokyo.com/asp/evt/evtdtl.aspx?dmf=1&ecd=KDT03888&ucd=&jdt=&kai=

川井郁子オフィシャルサイト:https://www.ikukokawai.com/

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