FREUDE試写室 Vol.2
『ショック・ドゥ・フューチャー』

FREUDE試写室 Vol.2

『ショック・ドゥ・フューチャー』

text by 有馬慶

純粋に音楽を聴く喜びとそれを共有する楽しみ

エレクトロ・ミュージック流行の前夜、1978年のパリが舞台。若い女性の主人公が最先端の電子楽器に魅せられ、保守的な音楽業界で奮闘する。監督は音楽ユニット「ヌーヴェル・ヴァーグ」のマーク・コリン。本作が映画監督デビューである。

「エレクトロ・ミュージック? よく知らないな。なんかマニアックで難しそう」……そんな声が聞こえてきそうである。

たしかに、このジャンルに詳しい人以外(つまり、筆者も含めた世の中の大半の人)には、何のことだかさっぱりわからない固有名詞やらレコードやら謎の機械やらがたくさん出てくる。監督自身もインタビューで嬉々として語っているように、本作はマニアックな音楽趣味が全開となっているわけだ。それでも私は本作を『FREUDE』読者におすすめする。あらゆる音楽好きや何かクリエイティブなことに関心のある人なら、「わかる! わかる!」と首を大きく縦に振りたくなるシーンが本作には満載だからだ。

©2019 Nebo Productions – The Perfect Kiss Films – Sogni Vera Films

例えば、主人公アナ(アルマ・ホドロフスキー)の家にレコード・マニアの老人が訪ねてきて、新しく入手したレコードを次々に紹介するシーン。「このバンドはライブがすごいんだよ」「いいね! これ気に入った」「じゃあ次はこれ。マジでクレイジーだから」「これはあんまり好きじゃないな。なんかボーカルがダサくない?」「何言ってんだ? ここの歌詞が素晴らしいだろ」「じゃあこれは?」といったやりとりを繰り広げる。しかも、トガった若い女性と穏やかな老紳士というこの二人の組み合わせ。そこには年齢・性別といった属性や経済的な要因は介在せず、純粋に音楽を聴く喜びとそれを共有する楽しみだけがある。たとえ「アクサク・マブール」というバンド名や『片頭痛のための11のダンス療法』というアルバム名(サティみたい!)を知らなくても、共感できるのではないだろうか。私は高校時代に世界史の先生とクラシック音楽の話で盛り上がったことを思い出した。

偶然出会ったクララといきなり意気投合して、一緒に曲を作り上げるシーンも良い。彼女たちが同じ音楽を創るもの同士であるのはもちろん、男性優位的な古い業界に対する反感も共有している。これは女性同士の連帯を描いた「シスターフッド」ものの潮流にも乗っている。

このように主人公に感情移入できるからこそ、終盤における挫折とほのかな希望には思わず心が動かされるだろう。最後に字幕で流れる女性先駆者たちの名前を見ながら、「私も何か新しい挑戦をしよう!」と前向きな気持ちが湧いてくるはずだ。

©2019 Nebo Productions – The Perfect Kiss Films – Sogni Vera Films

『ショック・ドゥ・フューチャー』
827日(金)新宿シネマカリテ、渋谷ホワイトシネクイントほか全国ロードショー

監督・製作・脚本・音楽:マーク・コリン(音楽ユニット“ヌーヴェル・ヴァーグ”)
脚本: エリーナ・ガク・ゴンバ
製作:ガエル・ルフィエ、ニコラ・ジューディエ
撮影:ステファノ・フォルリーニ
編集:ヤン・マルコール
出演:アルマ・ホドロフスキー、フィリップ・ルボ、ジェフリー・キャリー、クララ・ルチアーニ、コリーヌ
2019年/フランス/フランス語/78分/シネスコサイズ/原題:Le choc du futur/PG-12
配給:アット エンタテインメント
©2019 Nebo Productions – The Perfect Kiss Films – Sogni Vera Films
【公式HP】https://chocfuturjp.com/

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