箕面市立メイプルホール(大阪府)
身近なホールで体験する クラシック音楽の未来型
奥田佳道インタビュー【後編】

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箕面市立メイプルホール(大阪府)

身近なホールで体験する クラシック音楽の未来型

奥田佳道インタビュー【後編】

text by 八木宏之
cover photo by 樋川智昭

箕面市立メイプルホール(大阪府)の『坂入健司郎×大阪交響楽団 ブラームス交響曲全曲演奏』の楽しみ方や聴きどころを、音楽評論家の奥田佳道氏に紐解いてもらうインタビュー。前編では、奥田から見た坂入健司郎と大阪交響楽団の現在地や、2022年9月15日に行われた第1回演奏会に対する率直な意見を語ってもらった。後編では、2023年4月28日の第2回演奏会へ向けて、注目すべきポイントやこのプロジェクトの意義をさらに掘り下げていく。

さまざまな視点で楽しめるコンサート

――次回の4月28日の演奏会で取り上げられるブラームスの交響曲第2番では、どんなところに注目したらよいでしょうか?

交響曲第2番はブラームスが書いた最も流麗な作品であり、ブラームスの芸術の最高峰と言うべき傑作です。第2番は第1番に知名度では劣りますが、流麗さのなかに翳りを帯びた第2番は、第1番よりもブラームスらしい音楽だと思います。数多くの名演、名盤がある交響曲第2番で坂入さんがどのように自分らしさを発揮するのか、大いに楽しみです。

――奥田さんは今回のブラームス・ツィクルスのゲネプロ見学会やプレトークで案内役を務められています。箕面市立メイプルホールのお客さんにはどんな印象をお持ちですか?

いろいろなところでプレトークやレクチャーをする機会は多いのですが、箕面のお客さんは、作曲家や作品についての知識に関わらず、知的好奇心のある方が多くて驚きました。とても話し甲斐のある方たちです。クラシック音楽のマニアでなくとも、ブラームスをひとつのパフォーミング・アーツとして心から楽しんでいます。ゲネプロ見学会でも、「普段は入ることのできないリハーサルを見ることができて興味深かった」という感想にとどまらない、鋭い質問がたくさん飛び交います。皆さんが地元の地域ホールの活動に誇りを持っていることは、トークをしている側にもしっかりと伝わってきました。こうした熱心なお客さんが箕面にたくさんいたことを、今回のブラームス・ツィクルスは気づかせてくれたのだと思います。こうしたホールのファンを大切にしていくこと、彼らが喜んでくれるプログラムを考えていくことはとても重要です。

――演奏会には坂入さんと同世代やさらに若い世代のお客さんの姿もたくさん見られました。

若い世代はもちろん、今回のブラームス・ツィクルスを通して、新しいクラシック音楽ファンが誕生して欲しいと思います。4月の演奏会では、ブラームスだけでなく、前半に演奏されるモーツァルトの交響曲第35番《ハフナー》でも管楽器が大活躍します。吹奏楽が好きな方、管楽器の愛好家の方は間違いなく楽しむことができるプログラムですので、普段はオーケストラを聴かない吹奏楽ファンの方にもぜひ聴きに来て欲しいですね。また歴史好きの方は文化史の視点からコンサートを楽しむことができると思います。

大阪交響楽団を指揮する坂入健司郎 photo by 樋川智昭

お客さんも演奏会に「参加」する時代

――コンサートにはアーティストや作曲家、作品のほかにも、さまざまな関心の扉が開かれているのですね。最近は映画を倍速で観たり、音楽をサビだけ聴いたり、エンタテインメントにもなにかとスピードや効率を求める風潮がありますが、長い演奏時間を要するクラシック音楽はそうした時代の流れとは逆行しているのでしょうか。

そういう時代だからこそ、クラシック音楽の「長さ」はほかのジャンルと差別化できますし、強みにもなり得るのではないでしょうか。50人から100人の音楽家がステージ上で作り出すオーケストラの響きは、効率化された社会のなかでは非常に際立ったコンテンツです。
またアイドルや宝塚などで見られる「推し活」は、今後クラシック音楽でも重要なキーワードになっていくと思います。推しのアーティスト、推しのオーケストラ、推しのオーケストラ・メンバーを作って会場に足を運ぶと、作曲家や作品という観点だけだけではない、多様なコンサートの楽しみ方ができるようになります。これからはクラシック音楽のお客さんも演奏会に「参加」する時代なのです。

箕面市立メイプルホールのステージでプレトークを行う奥田佳道 photo by 樋川智昭

――たしかに東京交響楽団や神奈川フィルハーモニー管弦楽団、九州交響楽団など、熱心なファン、サポーターを獲得しているオーケストラが近年増えていますね。誰が指揮するから、誰がソリストだから聴きに行くのではなく、そのオーケストラだからチケットを買うというお客さんです。同時に、指揮者やソリストの熱狂的なファンもいて、そのどちらもがクラシック音楽界のこれからにとって重要な存在です。

聴衆が演奏会に主体的に参加するということは、これからのクラシック音楽のあり方に欠かせない要素だと思います。これまでの公開ゲネプロは、「夜の本番が楽しみですね」で終わってしまうものも少なくなかったのですが、主体的に参加するからこそ、公開ゲネプロも本番もより刺激的なものになります。
箕面のブラームス・ツィクルスの価値は、若い指揮者がブラームスの交響曲に挑むということだけにとどまりません。そうした企画はこれまでにもたくさんありました。しかし、そのプロセスを「見える化」して、メディアを通して発信し、指揮者とオーケストラがどう変化していくのかをお客さんに楽しんでもらうというのはありそうでなかったものです。お客さんが一緒になってコンサートを作り、それをよりよいものにしていくというのは、クラシック音楽のコンサートの新しいかたちと言えるでしょう。箕面市立メイプルホールの『坂入健司郎×大阪交響楽団 ブラームス交響曲全曲演奏』は、コンサートが始まる前も終わった後も楽しめる、聴衆参加型のプロジェクトなのです。

坂入と大阪響だけでなく、箕面市立メイプルホールに集い演奏に立ち会う聴衆ひとりひとりも、このプロジェクトの重要な一部であると奥田は語った。若き指揮者と老舗のオーケストラが、聴衆を交えながら相互に刺激し合い、変化していく。そのプロセスを楽しむ機会が4月に再びやってくる。第1回演奏会を会場で聴いた人は、第2回での坂入と大阪響のコミュニケーションの深化に耳を傾けたい。第1回を聴けなかった人も、第2回から参加すれば、残り3回の演奏会を通して音楽家たちの変容を目撃することができるだろう。箕面で起きている、予定調和ではない予測不能な音楽のドラマをぜひ自ら体験してみて欲しい。

箕面市立メイプルホール 公演情報

《身近なホールのクラシック》ブラームス交響曲全曲演奏会 Vol.2
2023年4月28日(金)
箕面市立メイプルホール 大ホール
坂入健司郎(指揮) 大阪交響楽団

メンデルスゾーン:《真夏の夜の夢》序曲
モーツァルト:交響曲第35番 ニ長調《ハフナー》
ブラームス:交響曲第2番 ニ長調

2023年2月16日(木)チケット一般発売開始

公演詳細:https://minoh-bunka.com/2022/11/02/20230428-brahmssymphony/

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