丹波篠山国際ヴィオラマスタークラス
ヴィオラの本質を探究する学びの場

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丹波篠山国際ヴィオラマスタークラス

ヴィオラの本質を探究する学びの場

text by 原典子

ヴィオラだけに特化した世界でも稀なマスタークラス

世界的ヴィオリストであり、多くの優れた後進を世に送り出してきた今井信子が中心となり、2021年にスタートした「丹波篠山国際ヴィオラマスタークラス」が、今年も9月12日(木)から9月21日(土)まで開催される。

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学生からプロフェッショナルまで、世界中から集まった12人のヴィオリストたちが、丹波篠山市(兵庫県)の自然豊かな環境のなかで、自身の演奏への探究を深める10日間。講師を務めるのは、今井をはじめ、ザ・イマイ・ヴィオラ・クァルテットのメンバーであるファイト・ヘルテンシュタイン、ウェンティン・カン、ニアン・リウの4人。9月20日(金)と21日(土)にはコンサートも予定されており、ヴィオラ好きは要注目のマスタークラスについて、講師たちのコメントとともにご紹介したい。

「丹波篠山国際ヴィオラマスタークラス」はコロナ禍の2021年にはじまり、昨年ようやく4名の講師全員が日本に集まっての開催に漕ぎつけました。私自身は昨年までのマスタークラスは序奏、今年からいよいよ主題に移り、さまざまな発展をしてゆく時期にきたと感じています。ヴィオラだけに特化したこれだけの規模のマスタークラスは世界でも稀です。そして講師陣は演奏家・指導者として国際的に活躍する人ばかりです。すでにアジアからの参加者も多く、ヨーロッパからの参加を希望する人たちも出てくるなど、日本から世界に発信するマスタークラスとなりつつあります。

丹波篠山には豊かな自然と城下町ならではの伝統的な街並み、素晴らしい食文化があります。ヴィオラを学べるだけでなく、こういった五感を刺激する要素に溢れているのも丹波篠山の魅力です。昨年からは受講生が街中でコンサートを行なったり、講師陣が地元のオーケストラのメンバーを指導するなど、丹波篠山市の方々との交流も始まりました。今年のマスタークラスではさらにどんな夢が出てくるか、新たな受講生たちとの出会いも含め、とても楽しみにしています。(今井信子)

講師を務めるザ・イマイ・ヴィオラ・クァルテットの4人。左からファイト・ヘルテンシュタイン、今井信子、ウェンティン・カン、ニアン・リウ

徹底した少人数制とアンサンブル・レッスン

このマスタークラスの大きな魅力は、なんといっても少人数制による充実したレッスンにあるだろう。スイス・バーゼル交響楽団首席奏者を経て現在はソロと室内楽の双方で活躍し、シューマン・クァルテットのメンバーでもあるファイト・ヘルテンシュタインは次のように語る。

「『丹波篠山国際ヴィオラマスタークラス』は、4人の講師がたった12人の受講生をレッスンするという極めてユニークなマスタークラスです。この比率によって、通常のマスタークラスよりも受講生ひとりひとりに目が行き届きます。多くの応募のなかから選ばれた受講生たちの演奏レベルはいずれも非常に高いものです」

もうひとつの特徴は、受講生が4人1組になって受講するヴィオラ・クァルテットのレッスンがあること。各組が担当の講師より3回のレッスンを受講する。ソリストとして世界のオーケストラと共演し、今年秋よりボストンのニューイングランド音楽院の教授に就任予定のウェンティン・カンは、アンサンブルの重要性を次のように説く。

「ヴィオラはソロ楽器であり、アンサンブル楽器でもあります。ヴィオリストだけを集めたマスタークラスにおいて、アンサンブルを学ぶことは必要不可欠。ヴィオリストにとって、さまざまな役割で演奏してアンサンブルを理解することは非常に重要な学びです。アンサンブルをすることで、生徒たちはお互いをよく知り、ヴィオラ・クァルテットのレパートリーを探求し、同じ音域の4本のヴィオラのなかで自分を表現することを学び、より個性を発揮することが求められるのです」

また、中国を代表するヴィオリストのひとりであり、上海音楽院初のレジデント・クァルテット、ハン弦楽四重奏団のメンバーでもあるニアン・リウはこう述べる。

「室内楽は、演奏者の聴く、見る、弾く能力を全方位的に解放します。そして多声部の作品から音楽の素材と機能を認識し、多角的な視点から楽譜を解釈し、みずからの感性と協調性を向上させることができます」

豊かな自然と歴史的な街並みが美しい丹波篠山というロケーション、受講生たちを受け入れる街の人々のホスピタリティも、忘れ難い思い出になるとファイト・ヘルテンシュタインは語る。

「このマスタークラスはヴィオラの演奏レベルが高いだけでなく、実行委員会の皆さんが丹波篠山の歴史を教えてくださったり、素晴らしい食事を用意してくださったりと、参加者全員への配慮が行き届いているところに感動します。一日休みをとって篠山城を散策したり、武士の格好をしたり、和菓子職人の指導を受けながら美味しいお菓子を作ったのは良い思い出です。ヴィオラの演奏を通してだけでなく、生徒たちがコミュニティとして親密になっていくのを見るのは素晴らしいことでした」

ヴィオリストにとって大切なこと

最後に3人の講師それぞれに、ヴィオリストにとって大切なこと、マスタークラスで学んでほしいこと、レッスンをするとき意識していることについて語ってもらった。

「ヴィオリストにとって、もっとも重要な要素のひとつは室内楽です。私たちはヴァイオリンとチェロを繋ぐ存在であり、あらゆるタイプの音楽において、しばしば繋ぐという役割を担っています。ですから、演奏者としての全体的なレベルを向上させるためにソロ曲を学ぶだけでなく、音楽家としての柔軟性とコミュニケーション能力を身につけるために、つねに室内楽を学ぶべきなのです。そして楽曲に耳を傾け、いつ前に出るべきか、いつ副次的な役割を果たすべきかといったタイミングを学びます。『丹波篠山国際ヴィオラマスタークラス』では、このような想いからヴィオラ・クァルテットの演奏と指導に多くの時間を割き、作曲家の意図に近づくため互いに学び合っています」(ファイト・ヘルテンシュタイン)

「ヴィオリストにとって、ヴィオラで自分の声を見つけることが本質的に重要だと私は思います。そのためには、知識、直感、内省、そして限りない探求の姿勢が必要です。ヴィオラという楽器は、演奏者次第でさまざまな可能性をもつ楽器です。自分自身の個性と声を理解し、明らかにするとき、ある意味、芸術にとって究極ともいえる自由な世界となるのです。私がレッスンをするときは、さまざまな作曲家の音楽を根本的に理解することに重点を置くと同時に、受講生がその作品の意味に関連した感情を発見することにも努めています。真の内なる声を明らかにするためには、個人的な感情がなければなりません」(ウェンテイン・カン)

「私にとっては、ヴィオラの音色とその表現方法がもっとも重要です。私たちのクラスでは、人と楽器の関係や表現の仕方にもっと注目し、受講生たちが目標を確立し、それを達成できるよう全力でサポートしていきたいと思います」(ニアン・リウ)

ヴィオラという楽器の本質を学び、自身の表現を探究するマスタークラス。ここから世界へと羽ばたくヴィオリストの活躍を期待したい。

 

公演情報

2024年9月20日(金)
マスタークラスコンサートI
修了コンサート

出演:TSIVMC2024 受講生
草冬香、伊藤修子、松田龍(ピアノ)
・各受講生が、個人レッスンで受講した楽曲から一曲演奏します。
・アンサンブルレッスンで受講したヴィオラ・クァルテットの曲を、各グループが演奏します。

2024年9月21日(土)
マスタークラスコンサートII
ザ・イマイ・ヴィオラ・クァルテットコンサート

出演:ザ・イマイ・ヴィオラ・クァルテット〔今井信子、ファイト・ヘルテンシュタイン、ウェンティン・カン、ニアン・リウ〕
草冬香(ピアノ)

会場:丹波篠山市立田園交響ホール

詳細:丹波篠山国際ヴィオラマスタークラス Webサイト
https://tsvmc.com/

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