福田廉之介
人と社会に奉仕するエンタテイナー
SEVEN STARS in 王子ホール Vol.6

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福田廉之介

人と社会に奉仕するエンタテイナー

SEVEN STARS in 王子ホール Vol.6

text by 八木宏之

クラシック音楽を「今」の時代にアップデートする若き音楽家たちのコンサート・シリーズ『SEVEN STARS』(主催:日本コロムビア)。シリーズ第6回となる1217日の演奏会(王子ホール)には、ヴァイオリニストの福田廉之介が登場する。

福田廉之介は人を楽しませること、喜ばせることを何より大切にする正真正銘のエンタテイナーだ。福田がリーダーを務めるアンサンブル、The MOSTMagical Orchestra of Special Talentsの頭文字から)の公演をリハーサルから本番まで取材したが、そこで聴いた《ツィゴイネルワイゼン》には大きな衝撃を受けた。リハーサルでは細かく作り込むことはせずに全体の流れを確認するだけだったが、本番では凄まじい集中力で即興性のある演奏を繰り広げ、福田のエネルギーがアンサンブルのメンバーにも瞬時に伝わって、その圧巻のパフォーマンスは会場を大いに沸かせた。演奏中、自らの演奏にアンサンブルが反応すると笑顔をみせ、ジャズのセッションのような音楽的対話を楽しんでいたのが印象的だった。リハーサルでの細かな打ち合わせはしていなくとも、福田のやりたいことがアンサンブルのメンバーとステージ上で共有されたのは、福田の音が明確なビジョンを持っているからにほかならない。

自分もあそこに立って演奏したい

岡山県に生まれた福田がヴァイオリンと出会ったのは3歳のとき。母はピアノを学んだことがあったものの、音楽家の家庭ではなく、ごく一般的な習い事としてヴァイオリンを始めた。福田が表現者としての片鱗を最初に示したのは、ヴァイオリンを習い始めて1年ほど経ったころだった。

「倉敷の大きなショッピングモールの吹き抜けで、アマチュアの音楽家たちが演奏しているのを見て、自分もあそこに立って演奏したいと母に言ったんです。ヴァイオリンを始めて間もない頃から、人前に立って演奏したいという欲求が強くありました。物心ついたときから、ヴァイオリニストになりたいという想いは自然と自分のなかにあったのを覚えています」(福田廉之介、以下同)

幼少期からヴァイオリニストとしての非凡な才能が明らかだった福田は、15歳でメニューイン国際コンクール(ジュニア部門)優勝を果たし、中学を卒業すると同時にスイスのシオンにある音楽学校へ留学した。スイスのフランス語圏にある小さな街シオンを留学先に選んだのは、学ぶことへの強い覚悟からだった。

「中学3年でこれからの進路を考えたとき、もちろん東京へ行く可能性もありましたし、ヨーロッパの大都市へ行くことも考えました。でも、人に流されやすい自分が東京へ行ったらきっと遊んでしまうだろうし、せっかく留学しても、ウィーンのように日本人留学生がたくさんいる街では、日本人のコミュニティに浸ってしまうかもしれない。ちょうどその頃、宮崎国際音楽祭のアカデミーでパヴェル・ヴェルニコフ先生のレッスンを受けて、自分にはない引き出しをたくさん持っている先生のもとで勉強してみたいと思うようになりました。ヴェルニコフ先生は自身が教えているウィーンやシオンなどの学校から、ウィーンを勧めてくれましたが、僕は迷わずシオンを留学先に選びました。シオンなら音楽に集中することができるし、語学の面でも自分を甘やかさずに過ごせると思ったからです。
留学する直前の2015年6月にアイスランドの音楽祭に参加して、そこでメンデルスゾーンの八重奏曲をさまざまな国の人たちと演奏しました。室内楽では演奏家の間でたくさんのディスカッションが欠かせませんが、当時の僕は英語もほとんど話せませんでした。それでも、単語を並べた片言で、ボディランゲージも交えて必死に伝えようとしたら、みんなあたたかく理解しようと努めてくれたんです。この経験によって、語学に対する羞恥心はなくなり、自然と英語を話すようになりました。スイスへ行ってからはフランス語も少しずつ話すようになりましたが、やはり間違いを恐れずに積極的に話すようにして、自然と習得していきました。留学前にこうした経験ができたことは本当によかったと思います」

シオンの音楽学校でもあっという間に頭角を現し、わずか1年で首席卒業した福田は、ローザンヌ高等音楽院シオン校へ飛び級進学する。現在は同校修士課程でヴェルニコフのほか、ジャニーヌ・ヤンセンにも師事している。

「ヤンセン先生のローザンヌ高等音楽院教授の試用期間中に生徒役を務めたのがきっかけで、彼女にも師事することになりました。今はヤンセンとヴェルニコフ、ふたりの先生のレッスンを交互に受けています。ヤンセン先生から特に学んでいることは「音質」です。ヤンセン先生はガリガリ、ゴリゴリ力強く弾いているように見えて、実際には腕の力が抜けていて、音に伸びがある。そうした彼女の右手の使い方を今は勉強しているところです

クラシック音楽に携わっている僕たちに責任がある

福田廉之介とThe MOSTのメンバーたち

福田がリーダーを務めるThe MOSTは、国内外で活躍する若い弦楽器のソリストたちによって構成され、リハーサルからホールでのサウンド・チェックまで、福田以外のメンバーも積極的に意見を出し合う、受け身の者はひとりもいないアンサンブルだ。前述のように即興性を楽しむ《ツィゴイネルワイゼン》のような演奏がある一方で、芥川也寸志の《トリプティーク》では、フレーズのひとつひとつを皆で議論しながら丁寧につくっていき、陰影に富んだ演奏を実現していた。The MOSTは、間違いなく今1番おもしろいアンサンブルのひとつだが、この団体の個性と特徴は、その演奏だけにとどまらない。福田は「クラシック演奏会による地域活性化や日本全国でのクラシック音楽の普及、そして10代以下の次世代を担う音楽家の育成」(The MOSTプログラムより)を理念に掲げてThe MOSTを法人化(一般社団法人)し、日本のクラシック音楽界の興隆に貢献するべく活動している。自らのキャリアを何より大切にしても決しておかしくはない22歳という年齢の若者が、自分の成功よりもクラシック音楽界の未来のために多くの時間を費やしていることは特筆に値する。

「自分も子供時代にたくさんの大人たちにサポートしてもらいました。僕も同じように次の世代をサポートしていきたいんです。The MOSTの活動のふたつの柱は、若手音楽家の育成地域の音楽文化の活性化です。クラシック音楽が衰退しているとよく言われますが、それはクラシック音楽に携わっている僕たちに責任がある。だから、The MOSTでは、東京や大阪以外の都市での演奏会も大切にしています。
また才能ある若手に演奏の機会を提供するために、コンチェルトのソリスト・オーディションやリサイタル・シリーズの企画なども行っています。これらに出演する子供たちにもちゃんとした金額の出演料を支払っていますが、それはステージに立つ演奏家としてのお客さんに対する責任を子供のときからしっかりと感じて欲しいからです。またクラシック音楽はスポンサーの存在が重要なので、そうしたスポンサーの方々の信頼のためにもしっかりと法人化して、理事には岡山音楽界の要職に就かれている方や弁護士の方にも加わっていただいて、社会に対して責任ある運営を行っています」

シオンで改めて真剣に向き合ったフランス音楽

これまでもFREUDEはクラシック音楽界のニューリーダーというべきアーティストにたくさん出会ってきたが、福田も間違いなく、これからのクラシック音楽界を引っ張っていく存在であろう。そんな彼がSEVEN STRARSのひとりとしてリサイタルで聴かせてくれるのは、プーランク、ラヴェル、ストラヴィンスキーというフランス・プログラムだ。

「スイスに留学するまでは、フランス音楽に対して自由でふわふわしたイメージを抱いていたのですが、シオンで改めて真剣にフランス音楽と向き合ってみると、実はすごく緻密な音楽だということに気付きました。プーランクとラヴェルは、同じフランスの作曲家ですが、その音楽性は正反対です。プーランクの音楽にはいくつもの顔があって、実像を掴むのが難しい作曲家ですが、そこに自分は親近感を抱いています。一方でラヴェルはとても内向的で、自分にはない世界を持っている作曲家です。自分の個性とは異なるラヴェルの精神に外側からアプローチするイメージでしょうか。
ストラヴィンスキーはスイスに縁のある作曲家ということで、プログラムに加えました。今回演奏する《ディヴェルティメント》の第2楽章ではスイスの伝統的なダンスが聴こえてきます。
いつもは小品を織り交ぜたプログラムを組むことも多いのですが、今回はソナタを中心とした構築的なプログラムを、同じ岡山県出身の松本和将さんとお届けします」

最後にこれからのビジョンについて福田に聞いてみると、想像を遥かに超えた答えが返ってきた。

「未来のことを考えても、その通りにはならないから、あまり考えないようにしています。今の自分の状況も、過去に想像していたものとは全然違うし、それだからこそ面白いのだと思います。でも、人に喜ばれることをして、人が幸せになってはじめて自分も幸せになる、という考え方は僕にとっての核となるものなので、いつか若い演奏家に奨学金を出せるようになったら良いなとは夢見ていますし、そのために、これからも頑張りたいと思っています」

生まれながらのエンタテイナーは、客席を楽しませるだけでなく、絶えず誰かを幸せにするために、今日もヴァイオリンと向き合い、自らを磨き続けている。

公演情報

福田廉之介 ヴァイオリン・リサイタル
《Labyrinth》
2021年12月17日(金)19:00開演
東京・王子ホール

松本和将(ピアノ)

プーランク:ヴァイオリン・ソナタ
ラヴェル:ヴァイオリン・ソナタ
ストラヴィンスキー:《ディヴェルティメント》

主催:日本コロムビア
問い合わせ先:Mitt Tel.03-6265-3201(平日12:00~17:00)
https://www.columbiaclassics.jp/20211217

■日本コロムビア エグゼクティブ・プロデューサー岡野博行氏より
福田廉之介の魅力は、一言では表せません。
最初に私が彼の音楽を聴いたときに頭に浮かんだのは、歌舞伎でした。
《カルメン幻想曲》を一聴して分かる独特のけれん味。とはいえ、それは浮ついたものではなく、しっかりとしたテクニックや伝統に対する理解に支えられている確かな手応えがあるのです。
かと思えば、プロコフィエフのソナタでは、能の仕舞のような、胆力のある静けさを描き出す。この若さで、この人の感性はどうなっているんだろう、という感じでした。
今回のリサイタルは、かなり硬派なプログラムですが、きっと彼ならではの、個性的で集中力のある表現で、私たちを別世界へ連れて行ってくれることでしょう。

福田廉之介 Rennosuke Fukuda
1999年岡山県生まれ。2014年メニューイン国際コンクール(ジュニア部門)優勝を皮切りに、17年ハイフェッツ国際、18年ハノーファー国際コンクールなどで入賞。スイス・シオンの音楽学校をわずか1年で首席卒業したのち、ローザンヌ高等音楽院に飛び級入学。現在ローザンヌ高等音楽院修士課程にて、ジャニーヌ・ヤンセン氏に師事。クリーヴランド管弦楽団、ロンドンフィルハーモニー管弦楽団、モスクワフィルハーモニー管弦楽団など多数のオーケストラと共演。2020年に日本コロムビア/Opus Oneレーベルより1stアルバム『プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ第2番』をリリース。また同年、自身が企画する室内楽オーケストラ「The MOST」を立ち上げた。
2021年4月には読売日本交響楽団の『土曜日曜マチネーシリーズ』にソリストとして出演。
欧州を中心とした演奏活動を経て、日本での活動を本格始動させている。使用楽器は1773年製ニコロ・ガリアーノ。

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