ヴィキングル・オラフソン
リフレクションズ

<Review>
ヴィキングル・オラフソン

リフレクションズ

リフレクションズ
ヴィキングル・オラフソン(ピアノ)
ハニャ・ラニ、ヘルギ・ヨンソン、ヒューガー、クラーク、バルモレイ
録音:2019~2020年
ユニバーサル ミュージック合同会社

text by 原典子

コンテンポラリー・アーティストとのリワーク

ときを超えて響き合うドビュッシー&ラモー

アンビエントや音響系、ポスト・クラシカルといったインストゥルメンタル主体の音楽は好きだけど、クラシックに足を踏み入れるのはちょっと……と感じている方がいらしたら、とりあえずこのアルバムをお勧めしたい。そして願わくば、今にも雨が降りだしそうな薄曇りの日にお聴きいただきたい。

ヴィキングル・オラフソンはアイスランド出身のピアニスト。イエロー・レーベルと呼ばれるクラシックの名門ドイツ・グラモフォンからアルバムをリリースしていることからも分かるように、伝統的なクラシックのフィールドで高く評価されていると同時に、ビョークやオーラヴル・アルナルズら同郷のアーティストと共演するなどして独自の活動を展開している。

その多面的な活動を象徴するように、オラフソンはクラシックのアルバムと、それに関連した「リワーク」をセットでリリースしてきた。自由な発想と飛翔するようなピアニズムでバッハに新しい光を当てた『バッハ・カレイドスコープ』のあとには、ヴァルゲイル・シグルズソン、ベン・フロスト、ヒドゥル・グドナドッティルらアイスランドのポスト・クラシカル周辺のアーティストや坂本龍一が参加した『バッハ・リワークス』を発表。同様に、バロックと近代のフランスの作曲家ふたりが時空を超えて響き合う『ドビュッシー – ラモー』のあとに、リワークとして発表されたのが、この『リフレクションズ』である。


『ドビュッシー – ラモー』よりラモー/オラフソン《芸術と時間》

アルバムは、あたたかみのあるくぐもったアップライト・ピアノの音色で奏でられるドビュッシーの「ヒース」(前奏曲集第2巻より第5曲)で幕を開ける。オラフソンのリビングルームのピアノ内部にマイクをセッティングして録音した「ホーム・セッション」。近年のポスト・クラシカル系のアルバムでよく使われている手法であり、コロナ禍におけるSTAY HOMEという状況のドキュメントでもある。

続いて、ポーランド生まれのコンポーザー・ピアニストでありヴォーカリストでもあるハニャ・ラニによる、ドビュッシー《選ばれし乙女》をもとにしたリワーク。4トラックめに入ってくるヴォーカルは、シガー・ロスのサポートも務めたアイスランドのヘルギ・ヨンソン。そして6トラックめはヒューガー(ピエトル・ヨンソン、ベルグル・ソルリソン)によるビートのきいたラモーのリワーク。……と、ここまでは所謂クラシックのアルバムとはまったく異なる多彩なサウンドが展開する。

しかし、冒頭の「ヒース」に即興を加えた8トラックめの《リフレクション》以降は、オラフソンの演奏するドビュッシーの世界にぐいぐい引き込まれていく。バロックの音楽技法に学んだドビュッシーが、古典的な組曲の形式のなかに独自の革新性を打ち出した《ピアノのために》。技巧を駆使した作品に、オラフソンの明晰なタッチはますます冴えわたり、ふと気づけば濃密な響きの海に溺れるように聴き入っている自分に気づくだろう。

終盤はクラークバルモレイによるサウンドスケープでクールダウン。バロック、近代、そして現在へと至る旅を終えたとき、あなたのなかにはどんな響きの余韻が残っているだろうか。

 

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