横浜みなとみらいホール リニューアルオープン
ときめく音楽を海の見えるホールから

PR

横浜みなとみらいホール リニューアルオープン

ときめく音楽を海の見えるホールから

text by 八木宏之
cover photo ©平舘 平

1年10ヶ月の大規模改修を終えて

横浜みなとみらいホールが開館したのは、横浜ベイスターズが38年ぶりの日本一に輝いたのと同じ年、1998年のことだった。以来この美しい港町の音楽文化を盛り上げてきた横浜みなとみらいホールは、2023年の開館25周年の節目に向けて、1年10か月に及ぶ大規模改修工事を行なった。その間施設は休館していたが、いよいよ来る10月21日にリニューアルオープンの日を迎える。

リニューアルオープンにあたって横浜みなとみらいホールは、新しいコンセプトとロゴを策定した。キャッチフレーズは「ときめく音楽を海の見えるホールから」。それを表すロゴは横浜みなとみらいホールのアルファベットの略称である「MMH」をベースに、「MM」を横浜の海の波、「H」を横浜のシンボルであるベイブリッジに見立て、さらに「MM」には音楽を楽しむ観客、「H」にはステージのイメージを重ねた。音楽を生み出す人、楽しむ人、そして両者をつなげる人の全てが輝ける、市民に愛されるホールを目指すという想いがこのロゴには込められている。

10月29日に行われる記念すべきオープニング・コンサートを任されたのは、横浜みなとみらいホールを拠点に活動する神奈川県唯一のプロ・オーケストラ、神奈川フィルハーモニー管弦楽団。2022年4月から新たに神奈川フィル音楽監督に就任した沼尻竜典とともに、リヒャルト・シュトラウスの大作《アルプス交響曲》を演奏する。100人を超す演奏家が作り出す音の大伽藍が、横浜みなとみらいホールに新しい命を吹き込むだろう。

翌30日には、沼尻と神奈川フィルが「ヨコハマ・ポップス・オーケストラ」に姿を変え、挾間美帆の新作《ベイ・プロムナード》(横浜JAZZ協会創立30周年記念委嘱作品)世界初演やバーンスタインの名曲《ウェスト・サイド・ストーリー》より〈シンフォニック・ダンス〉など、思わず身体が動き出しそうなプログラムでホール全体をダイナミックに揺さぶる。

10月29日のオープニング公演を指揮する沼尻竜典(神奈川フィルハーモニー管弦楽団音楽監督)

ふたりのキーパーソン

新しく生まれ変わった横浜みなとみらいホールにはふたりのキーパーソンがいる。1人目は「横浜みなとみらいホール プロデューサー 2021-2023」を務めるカウンターテナーの藤木大地。「アーティスト in レジデンス」はしばしば見かけるが、「プロデューサー in レジデンス」というのは珍しい。日本を代表するカウンターテナーとして、ステージ上でその歌声を披露するだけでなく、これまでのキャリアを通じて培った経験を、企画や後進育成などステージの裏側にまで浸透させることが藤木の役割だ。

そうした藤木のプロデューサーとしての仕事の核となるプロジェクトが、『横浜みなとみらいホール×洗足学園音楽大学 藤木大地と学生がつくるコンサート』である。洗足学園音楽大学の学生たちが、藤木やホール・スタッフのアドバイスを受けながら、企画立案から出演依頼、広報活動、当日の会場運営まで、公演制作の流れを全て経験するこのコンサートは、音楽職業人の育成をなにより重視する藤木のアイデアから生まれたものだ。クラシック音楽業界で働くプロフェッショナルの絶対数の少なさに危機感を覚えた藤木は、こうした企画を通して、演奏家だけでなく、それを支える裏方も育てることで、クラシック音楽文化全体が活性化していくことを目指している。藤木自身も学生たちからのオファーを受けて出演する11月28日の企画演奏会『音楽劇《天岩戸》』は、横浜からクラシック音楽界の未来へ向けて放たれる希望のメッセージになるだろう。

初代プロデューサー in レジデンスを務める藤木大地©hiromasa

横浜みなとみらいホールのもう1人のキーパーソンは、2022年4月から第2代ホールオルガニストに就任した近藤岳だ。横浜みなとみらいホールが誇るパイプオルガン「ルーシー」のオーバーホールも、今回の大規模改修の重要なプロジェクトのひとつであった。近藤はメンテナンスを終えた「ルーシー」とともに、ホールの顔のひとりとして、演奏だけでなく企画や後進の指導にも取り組む。11月25日には『フランス・シンフォニックの輝き』と題する就任披露リサイタルも開催され、「ルーシーが1番輝く」と近藤が語るヴィドールやフランクなどのフランス・オルガン音楽が横浜みなとみらいホールに鳴り響く(そのほか10月29日の沼尻と神奈川フィルによるオープニング・コンサートでも《アルプス交響曲》のオルガン・パートを近藤が担当する)。

第2代ホールオルガニストに就任した近藤岳©平舘 平

藤木と近藤がともに出演する11月3日のコンサートにもぜひ注目したい。巨匠井上道義とNHK交響楽団が、藤木とはマーラーの《リュッケルトの詩による5つの歌曲》を、近藤とはサン=サーンスの交響曲第3番《オルガン付き》を演奏し、横浜みなとみらいホールの新時代の始まりを祝う。2024年末での引退を宣言している井上の公演は、今やひとつひとつが貴重なもの。井上が藤木、近藤とどんな化学反応を起こすのか、一期一会の体験を楽しみに待ちたい。

全ての人に開かれたホールを目指して

今回のリニューアルでは、全てのひとに音楽を楽しんでもらえるホールを目指して施設のバリアフリー化が進められた。11月1日には、視覚に障がいのある演奏家を含むアンサンブルが暗闇のなかで演奏するコンサート『ミュージック・イン・ザ・ダーク』も開催される。ヴァイオリニストの和波たかよしを中心に行われるこの公演は「全ての人に開かれたホール」という横浜みなとみらいホールのアイデンティティを具現化したコンサートであり、全ての参加者が視覚に障がいのある演奏家や聴衆とともに、音楽を楽しむことの意味を考える時間となる。

11月には、国外からも大物アーティストが横浜みなとみらいホールに次々とやって来て、リニューアルオープンに華を添える。11月9日には、アメリカの名門ボストン交響楽団が音楽監督アンドリス・ネルソンスとともに横浜みなとみらいホールに初登場し、マーラーの交響曲第6番を演奏するほか、中高生のための特別プログラム(公開リハーサル)も開催される。ボストン響は、主催・共催事業としては2020年1月3日のウィーン・ヨハン・シュトラウス管弦楽団以来、2年10ヶ月ぶりに横浜みなとみらいホールが迎える外国のオーケストラだ。

アンドリス・ネルソンス(ボストン交響楽団音楽監督)©Marco Borggreve

『横浜市招待国際ピアノ演奏会』第40回を記念して、11月17日に行われるマルタ・アルゲリッチと海老彰子のデュオ・リサイタルにも大きな注目が集まっている。横浜みなとみらいホールはお気に入りのホールだと語るアルゲリッチが盟友海老彰子とどんな対話を繰り広げるのか。日本では初披露となるこのコンビによるデュオは絶対に聴き逃せない。

横浜には、みなとみらい、赤レンガ倉庫、山手、中華街、山下公園など、休みの日に思わず出かけたくなる場所がたくさんある。そんな横浜の街に、横浜みなとみらいホールのある暮らしが2年ぶりに帰ってくる。この秋はぜひとも、「ときめく音楽」を見つけに「海の見えるホール」へぶらりと出かけてみてほしい。

横浜みなとみらいホール©平舘 平

公演情報

『沼尻竜典指揮 神奈川フィルハーモニー管弦楽団』
2022年10月29日(土)15:00開演
横浜みなとみらいホール 大ホール

沼尻竜典(指揮)
神奈川フィルハーモニー管弦楽団(管弦楽)

ヤン・ヴァンデルロースト:横浜音祭りファンファーレ
三善晃:管弦楽のための交響詩《連祷富士》
R. シュトラウス:《アルプス交響曲》 Op.64

公演情報:https://yokohama-minatomiraihall.jp/concert/archive/recommend/2022/10/2408.html

『ミュージック・イン・ザ・ダーク』
2022年11月1日(火)15:00開演
横浜みなとみらいホール 小ホール

和波たかよし(ヴァイオリン)
川畠 成道(ヴァイオリン)
成田 達輝(ヴァイオリン)
小林 美樹(ヴァイオリン)
特別編成合奏団(コンサートマスター:三浦 章宏)

ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集《和声と創意の試み》Op.8 〈四季〉ほか

公演詳細:https://yokohama-minatomiraihall.jp/concert/archive/recommend/2022/11/2409.html

『井上道義指揮NHK交響楽団 藤木大地(カウンターテナー)』
2022年11月3日(木・祝)17:00開演
横浜みなとみらいホール 大ホール

井上 道義(指揮)
藤木 大地(カウンターテナー)
近藤 岳(オルガン)
NHK交響楽団(管弦楽)

J. シュトラウスⅡ世:ワルツ《南国のバラ》 Op.388
マーラー:《リュッケルトの詩による5つの歌曲》
サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調 《オルガン付き》 Op.78

公演詳細:https://yokohama-minatomiraihall.jp/concert/archive/recommend/2022/11/2410.html

『KDDI スペシャル アンドリス・ネルソンス指揮ボストン交響楽団』
2022年11月9日(水)19:00開演
横浜みなとみらいホール 大ホール

アンドリス・ネルソンス(指揮)
ボストン交響楽団(管弦楽)

マーラー:交響曲第6番 イ短調

公演詳細:https://yokohama-minatomiraihall.jp/concert/archive/recommend/2022/11/2416.html

『横浜市招待国際ピアノ演奏会第40回記念特別公演 マルタ・アルゲリッチ&海老彰子 デュオ・リサイタル』
2022年11月17日(木)19:00開演
横浜みなとみらいホール 大ホール

マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
海老 彰子(ピアノ)

モーツァルト:2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K.448(375a)
ラフマニノフ:組曲第2番 Op.17
ルトスワフスキ:《パガニーニの主題による変奏曲》
ラヴェル:《ラ・ヴァルス》
ラヴェル:《マ・メール・ロワ》

公演詳細;https://yokohama-minatomiraihall.jp/concert/archive/recommend/2022/11/2427.html

『近藤岳 オルガン・リサイタル ~ホールオルガニスト就任記念~』
2022年11月25日(金)19:00開演
横浜みなとみらいホール 大ホール

近藤岳(オルガン)

ヴィドール:オルガン交響曲 第6番 ト短調 Op. 42 No. 2
デュプレ:《3つの前奏曲とフーガ》 Op. 7
フランク:《3つのコラール》より 〈コラール 第1番 ホ長調〉

公演詳細:https://yokohama-minatomiraihall.jp/concert/archive/recommend/2022/11/2412.html

『横浜みなとみらいホール×洗足学園音楽大学 藤木大地と学生が作るコンサート 音楽劇《天岩戸》』
2022年11月28日(月)17:00開演
横浜みなとみらいホール 大ホール

アマテラス:藤木大地(カウンターテナー)
スサノオ:境信博(バスバリトン)
案内人:柳澤涼子
林菜月(ピアノ)
横浜市小学校教員
洗足学園音楽大学学生(声楽コース、ダンスコース、ピアノコース)

公演詳細:https://yokohama-minatomiraihall.jp/concert/archive/recommend/2022/11/2434.html

最新情報をチェックしよう!