関朋岳ヴァイオリン・リサイタル
20年の旅路を映し出すプログラム

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関朋岳ヴァイオリン・リサイタル

20年の旅路を映し出すプログラム

text by 本田裕暉

2018年の第16回東京音楽コンクールで第1位を受賞し、ソリストとしての活動はもちろんのこと、弦楽四重奏やピアノ三重奏などの室内楽にも積極的に取り組む俊英、関朋岳。オーケストラの公演にもしばしばゲスト・コンサートマスターとして出演し、今注目のアニメ『青のオーケストラ』にも演奏者(羽鳥葉役)として参加するなど、まさに八面六臂の活躍を続けている。関にとって2023年はヴァイオリンを学び始めてから20年の節目の年。来たる8月26日に東京文化会館小ホールで行われるリサイタルのプログラムには、そんな関のこれまでの歩みを象徴する、彩り豊かな名品たちが並んでいる。プログラムに込められた想いについて、じっくりと話を聞いた。

「ターニングポイント」になった名曲たち

――今回のリサイタルのタイトルは『Memories vol.1』とのことですが、色彩感あふれる名曲が並んでいますね。

今年は私がヴァイオリンを習い始めてから20年の節目の年なので、これまでの歩みを振り返ってみたときに「ターニングポイント」になった曲を選びました。

――演奏会はクライスラーの《コレルリの主題による変奏曲》で幕をあけます。これは6歳のときに演奏した作品だそうですね。

私はスズキ・メソードで学んでいたので、基本的には教本の曲を順番に勉強していたのですが、「発表会で教本にはない曲にトライしたい」と守田マヤ先生にお伝えしたところ、《コレルリの主題による変奏曲》をお薦めしていただいたのです。本気で練習しないと本番に間に合わない、という曲に取り組んだのはそのときが初めてでした。

当時はただただ「難しい」と感じながら演奏していたのですが、昨年ウィーンのフリッツ・クライスラー国際コンクールを受けた際に、第1回(1979年)の優勝者であるドミトリー・シトコヴェツキー先生にクライスラーの音楽を徹底的に習う機会に恵まれまして、彼からウィーンの伝統的なリズムなどを学ぶにつれて、「ウィーンの空気」が薫るような演奏をするにはどのようなアプローチをしたらよいのか、より深く考えるようになりました。

――続いて演奏されるのはバルトークの《ルーマニア民族舞曲》です。

ちょうどこの作品を練習していたときに、人生で初めてマスタークラスを受講したのです。辰巳明子先生のような著名な先生にレッスンしていただき、初めて外の世界を知りました。こちらは気品に満ちたクライスラーとはまた異なった、独特の土臭さが魅力的な作品で、同じ踊りのリズムを含む音楽であってもその重さの種類がまったく違いますから、そういったところも感じていただけたら嬉しいです。

――次のベートーヴェンのピアノ三重奏曲第1番は、小学3年生の頃、初めて室内楽に挑戦したときに演奏した作品だと伺いました。

スズキ・メソードには年に10人、優秀な生徒が選ばれて全国をツアーする「テン・チルドレン」というコンサートがあり、その演奏会でたまたまトリオに振り分けられて、この曲を演奏しました。そのときに初めて同世代の仲間たちと音楽を作り上げていくことの魅力を体験したのです。ベートーヴェンのピアノ三重奏曲第1番は、3人で音色を追求して、そのトリオにしか出せない音を奏でることが求められる曲だと思います。響きの優しさやあたたかさが感じられる第2楽章などは特にそうですね。

――ピアノの佐川和冴さんチェロの原宗史さんと結成されたTrio Gokokujiの公演(2022年4月)でも演奏されていましたね。

Trio Gokokujiとしての演奏会はそのときが初めてだったのですが、せっかく勉強するならばアンサンブルの土台になるような、しっかり自分たちの身になる曲を勉強したいという思いもあって採り上げました。

――今回もTrio Gokokujiの3人での演奏です。トリオの名前は、東京音楽大学付属高等学校に通われていた頃に、たまたま一緒に出掛けた護国寺にちなんで名づけられたそうですね。

団体名に地名を入れているグループは結構ありますよね。それで3人での思い出のある地名にしようとTrio Gokokujiと名づけました。やはり、信頼しているふたりと演奏するのは、他の人と弾くのとは違うなと感じます。練習中もお互い物怖じせずに、やりたいことを素直に言えたり、10年来の付き合いなのでお互いの良さについても理解し合っていたり。それゆえに奏でられる音楽もあると感じています。

自分らしさを追い求めて

――サン=サーンスの《序奏とロンド・カプリチオーソ》はスペイン出身の名ヴァイオリニスト、サラサーテのために書かれた難曲ですね。

この曲は中学2年生のときに学生音楽コンクールの全国大会で弾いた作品です。当時は桐朋学園の小林健次先生に習っていたのですが、先生はとてもあたたかい方で、それが素直に音楽に乗るのです。健次先生は音楽をするうえで垣根がない人でした。色々な人と付き合って、人間的に成長して、それが音楽につながっていく、ということを間近で見せていただきました。私が健次先生から受けた影響はとても大きく、先生にしっかりとレッスンしていただいた曲をプログラムに入れたいと思い、この作品を取り上げることにしました。スペイン風の響きの中からサン=サーンスらしいフランスの薫りも漂ってくる、とてもお洒落な曲だと思います。

――ドビュッシーの《弦楽四重奏曲》は、原田幸一郎先生との思い出と結びついている大切な曲だそうですね。

中学3年生で進路を悩んでいたときに「垣根のない」健次先生が紹介してくださったのが、桐朋学園でも東京藝術大学でもなく、東京音楽大学の原田幸一郎先生でした。習うからには先生の演奏を聴いておくべきだと思い、CDを数枚買ったのですが、そのときに東京クヮルテットのドビュッシーとラヴェルを聴いて「原田先生はこんなに凄いことを成し遂げたんだ!」と驚きました。同時に、ドビュッシーにこんな名曲があるということも初めて知り、それ以来チェルカトーレ弦楽四重奏団(2017年結成)などでも演奏しています。この作品の第3楽章は、今では世界で一番好きな曲です。

――今回は豪華メンバーでの演奏ですね。皆さんとは普段から共演されているのですか?

このカルテットとしては、今回が初めての本番になります。一番最初に出会ったのはヴィオラの村松龍さん(NHK交響楽団次席奏者)で、N響アカデミーや「ハマのJACK」(横浜を拠点に地域密着型の活動を展開する演奏団体)でも昔からお世話になっています。チェロの荒井結さんとは今年の3月にリヒャルト・シュトラウスを弾く演奏会でご一緒させていただきました。私はこれまでも幾度か東京シティ・フィルでコンマスをさせていただく機会があったのですが、あるとき遠藤香奈子さん(東京都交響楽団首席奏者)が第2ヴァイオリンのゲスト首席としていらしていて、そのときにお話しする機会があり、意気投合しました。皆さん本当に優しくて。こんな未熟な自分の演奏会に出演してくださるだけでもありがたいのに、本当に心から応援して、サポートしてくださるのです。

――リサイタルの終盤では、チャイコフスキーの《懐かしい土地の思い出》の第2曲〈スケルツォ〉、第3曲〈メロディ〉が演奏されます。

この曲は高校3年生のときに勉強しました。小品らしい短さのなかで、颯爽とした味わいとロマンティックな抒情美の両面を見せられるところが好きですね。東京音大ではしばしばマスタークラスが開催されるのですが、神尾真由子先生がいらっしゃった際、チャイコフスキー国際コンクールの覇者に見ていただくならば協奏曲は間に合わなくても、せめて《懐かしい土地の思い出》をと思って準備し、レッスンしていただいた思い出の曲です。神尾先生には、いかにして華やかに魅せるか、どのようにお客様を惹きつけるのか、どうやってパッションを表現するのか、といったことを教えていただきました。神尾先生のおかげで臆せずに色々なことを表現できるようになったと思います。

――最後はショーソン晩年の名曲《詩曲》で締めくくられます。

国内のコンクールを受け終えて海外に目が向いてきたときに、自分の良さを素直に伝えられる曲は何か、ということを考えたのですが、その際に神尾先生にお薦めしていただいたのがショーソンの《詩曲》でした。当時受けたエネスコ国際コンクールの二次予選で結構上手く弾けて、審査員の方にも褒めていただきました。そして、この曲が自然と自分の勝負曲になっていったのです。

――改めて曲目を見てみると、フランスの作品が数多く並んでいますね。やはりフランス音楽がお好きなのですか?

もちろんベートーヴェンなども好きなのですが、今回特にフランスの作品を選んだ背景には、自分がこの秋からフランスに留学するという事情もあります。

――これまでの歩みを振り返るだけでなく、未来にもつながっているプログラムなのですね。今後さらに挑戦していきたいことや、磨きをかけていきたいことはありますか?

今までは感情を演奏に乗せて表現することが大事だと思っていたのですが、これからは曲そのものの良さをシンプルに伝えたうえで自分の感情をそこに乗せる、というアプローチをしていきたいと思っています。色々な国へ行って、色々な作曲家の音楽性を理解していきたいです。また、将来的にどんな仕事をしたいのかと考えたときに、コンサートマスターをやりたい気持ちもあります。今後もプロのオーケストラの公演にゲスト・コンマスとして出演させていただく予定がありますので、そちらの活動にもぜひ注目していただけたら嬉しいです。

©井村重人

公演情報

関朋岳ヴァイオリン・リサイタル

2023年8月26日(土)14:00開演(13:30開場)
東京文化会館小ホール

関 朋岳(ヴァイオリン)
佐川 和冴(ピアノ)
遠藤 香奈子(ヴァイオリン)
村松 龍(ヴィオラ )
原 宗史(チェロ)
荒井 結(チェロ)

クライスラー:《コレルリの主題による変奏曲》
バルトーク:《ルーマニア民族舞曲》
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第1番 変ホ長調 Op.1-1より第2楽章、第4楽章
サン=サーンス:《序奏とロンド・カプリチオーソ》 イ短調 Op.28
ドビュッシー:弦楽四重奏曲 ト短調 Op.10
チャイコフスキー:《懐かしい土地の思い出》より第2曲〈スケルツォ〉、第3曲〈メロディ〉
ショーソン:《詩曲》

公演詳細:https://www.amati-tokyo.com/performance/2305231438.php

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