日本オペラ協会『ニングル』世界初演へ向けて
プレイベント「倉本聰〜今、ニングルを語る」開催
text by 八木宏之
人間と自然の共生を問い直すオペラ
『北の国から』をはじめ、数多くの人気テレビドラマを手掛けてきた脚本家の倉本聰。劇作家、演出家としても活動する倉本の代表作のひとつ『ニングル』が、この度日本オペラ協会によってオペラ化されることとなった。倉本作品のオペラ化は今回が初めてのことで、2024年2月の世界初演へ向けて、8月22日にプレイベント「倉本聰〜今、ニングルを語る」が北海道の富良野で開催される(オンライン配信あり)。
ニングルとはアイヌに伝わる小人で、富良野地方の森に住むとされてきた。倉本はこのニングルを題材にした小説を1985年に発表し、戯曲版も1993年に初演している。倉本のこれらの作品を通して、ニングルの伝説は広く全国に知られるようになった。1998年に放送され、倉本がナレーションを務めたACジャパンのテレビCM『森のニングルが消えた星』では、森林伐採による環境破壊に反対するキャンペーンのシンボルとしてニングルが登場した。
倉本の『ニングル』も人間と自然の共生や環境保護をテーマにした作品である。地域経済を発展させるために森林を伐採し、農耕地を拡大したある村を舞台に、豊かさを求めながら、自然の営みを守ることの苦悩や葛藤を描いた『ニングル』は、地球規模での環境保護が叫ばれる今こそ、改めて注目すべき作品と言えるだろう。倉本は作品を通して環境破壊に警鐘を鳴らすだけでなく、自ら環境保護のために行動してきた作家である。1993年に環境問題を考え行動する作家たちのグループ「自然文化創造会議」(C.C.C)を設立し、2006年には「C.C.C. 富良野自然塾」を立ち上げ、閉鎖されたゴルフ場を植樹によって自然に還す運動に取り組んできた。倉本が『ニングル』を書いた1980年代よりも、環境破壊の影響がさらに深刻化している2020年代に、この作品がオペラ化される意義は大きい。
『ニングル』をオペラ化するにあたり、台本の執筆は倉本が信頼を寄せる吉田雄生が担当した。吉田はニッポン放送のプロデューサーとしてラジオドラマ『倉本聰・ニングル』(1995年)の制作を担当するなど、長年にわたり倉本と親交を結んできた。作曲の渡辺俊幸は、NHK大河ドラマ『利家とまつ』や『毛利元就』など、数々のテレビドラマや映画の音楽を手掛けてきた名匠で、鈴木大拙と西田幾多郎を描いたオペラ『禅〜ZEN』(2022年1月に世界初演)でも大きな注目を集めた。演出には藤原歌劇団、日本オペラ協会で数々のプロダクションを成功に導いてきた岩田達宗を迎える。指揮を務めるのは日本オペラで豊富な実績を誇る田中祐子、管弦楽は東京フィルハーモニー交響楽団が担う。
8月22日のプレイベントは2部構成。第1部では、倉本と、吉田、渡辺、岩田の製作陣3名に、本公演でニングルの長役を務めるバリトンの江原啓之も加わって、スペシャルトークショー「現代、自然界、精霊伝説からオペラへ」が行われる。第2部では、俳優の森上千絵による童話『ニングルの森』の朗読に続いて、テノールの海道弘昭(才三役)とソプラノの佐藤美枝子(かつら役)が、松本康子のピアノとともに、オペラ『ニングル』の一部を初演に先立って披露する。
プレイベントはニングルの故郷、富良野で開催されるが、オンラインでのライブ配信(アーカイブ配信あり)もあり、全国どこからでもイベントを観覧することができる。まずはプレイベントを通して、オペラ『ニングル』の世界へ近づいてみてはいかがだろう。
イベント情報
オペラ『ニングル』初上演記念プレイベント
「倉本聰〜今、ニングルを語る」2023年8月22日(火) 19:00開演(18:30開場)
富良野演劇工場(富良野市中御料)
ライブ配信あり(8月28日までアーカイブ視聴可能)第1部 スペシャルトークショー
「現代、自然界、精霊伝説からオペラへ」
倉本聰(原作)渡辺俊幸(作曲)岩田達宗(演出)吉田雄生(オペラ脚本)江原啓之(バリトン、ニングルの長役)第2部 朗読と歌
朗読:童話『ニングルの森』より
森上千絵(俳優)
歌:オペラ『ニングル』より
海道弘昭(テノール、才三役)佐藤美枝子(ソプラノ、かつら役)松本康子(ピアノ)イベント詳細:https://www.jof.or.jp/performance/nrml/2308_ninguru_pre.html
本公演詳細:https://www.jof.or.jp/performance/nrml/2402_ninguru.html