箕面市立メイプルホール
身近なホールのクラシック
2025年度ラインナップ「冒険心を持って」

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箕面市立メイプルホール

身近なホールのクラシック

2025年度ラインナップ「冒険心を持って」

text by 八木宏之

坂入健司郎と大阪交響楽団による『ブラームス交響曲全曲演奏』を通して、全国のクラシック音楽ファンにその名を知られるようになった箕面市立メイプルホール。FREUDEも3年にわたるこのプロジェクトを追いかけ続けてきたので、メイプルホールは読者の皆さまにはすっかりお馴染みのホールとなっただろう。座席数501席の地域ホールにとって、坂入と大阪響のブラームス・ツィクルスは大きなチャレンジだったが、メイプルホールが得たものは大きかった。箕面市や大阪府のみならず、関西圏でもっとも意欲的な公演ラインナップを打ち出すホールのひとつとして、メイプルホールの存在感は4年前と比べて飛躍的に大きくなった。ただ単にコンサートを開催するだけでなく、「マエストロ・サロン」や「ゲネプロ見学会」といったイベントや生涯学習講座を通して、市民がオーケストラを楽しむ土壌を耕し、地域にしっかりと根を張ったクラシック音楽文化を醸成したことも特筆に値するだろう。

そんなメイプルホールがブラームス・ツィクルスのあとにどんな公演ラインナップを打ち出すのか。この度発表された2025年度のラインナップ「冒険心を持って」は、メイプルホールがこれからも挑戦する姿勢を崩さない、強い意思表示のような内容となっている。メイプルホールの企画を担うプロデューサー役の和田大資は、「メイプルホールは百貨店ではなくセレクトショップ。評価がすでに定まったアーティストよりも、今という時代を反映する卓越したアーティストを中心にプログラムを組んでいるのは、新しいことにチャレンジし続けることが、お客様のワクワクに繋がると信じているからです」と語る。

初のオペラ、寺子屋という試み、最先端の生涯学習講座

「身近なホールのクラシック」のこれまでのラインナップは、オーケストラ、室内楽、ソロ・リサイタルを軸に、音楽への好奇心を刺激する生涯学習講座やイベントを枝葉としながら、質の高い音楽生活を地域住民に提供してきた。2025年度は、そこにオペラが加わる。取り上げるのはスペインの作曲家、マニュエル・デ・ファリャのオペラ《ペドロ親方の人形芝居》。9年にわたって続いてきた「身近なホールのクラシック」だが、オペラは初めての試みだ。《ペドロ親方の人形芝居》は、大阪大学との連携のもと、2025年2月に兵庫県立尼崎青少年創造劇場ピッコロシアターで上演され、本公演はその再演となる。企画はメイプルホールの生涯学習講座「中欧音楽夜話」で講師を務める伊東信宏大阪大教授。演出はマイム俳優のいいむろなおきが担当し、大阪府能勢町の浄るりシアターの協力を得て、浄瑠璃人形を用いた上演が行われる予定だ。様々な劇場や大学と協力しながら実現するオペラ《ペドロ親方の人形芝居》は、メイプルホールの活動がこれまで以上に広がりを持つことを予感させる(2025年4月26日)。

オペラ《ペドロ親方の人形芝居》

『おんがくの寺子屋みのお』は、元ケルン放送交響楽団ソロ・ヴィオラ奏者で、現在はNHK交響楽団首席ヴィオラ奏者を務める村上淳一郎が提案する、リハーサルと演奏会が一体となった新しい音楽体験である。昨年は公開リハーサルのみ行われ、村上自身も驚くほどの大きな反響があったが、今年はコンサートも含めた企画に発展した。『寺子屋』の試みは村上が以前から続けているもの。本番だけでなく、リハーサルで演奏が作り上げられていくプロセスも見学することで、音楽との関わり方やその楽しみ方のバリエーションを増やすことが狙いだ。メイプルホールでお馴染みのヴァイオリニスト、石上真由子も村上の音楽的で刺激に満ちたリハーサルを絶賛している(2025年5月17日)。

『おんがくの寺子屋みのお』村上淳一郎

箕面市立西南生涯学習センターで開催される講座の目玉となるのは、リコーダー奏者の菅沼起一による『リコーダーと音楽史〜当事者としての物語の紡ぎ方』である。和田はスイスを拠点に活動する菅沼を、SNSを通してかねてから注目していた。SNSを駆使して新しい挑戦を行なっている若手演奏家をキャッチし、すぐにキャスティングへと繋げる制作手法は、今のメイプルホールの大きな特徴のひとつだ。今回生涯学習講座の講師をオファーするにあたり、和田が提案したテーマは「古楽」だったが、菅沼が企画した全10回の講座は古楽に限定せずに、より広い視点で音楽史を捉える内容となっている。60歳以上の箕面市民を対象とした箕面シニア塾のリコーダー企画は人気の講座で、メイプルホールの聴衆にとってリコーダーは馴染みのある楽器でもある。9月には、昨年の第93回日本音楽コンクールで第1位に輝いたソプラノ、竹田舞音をゲストに招いたレクチャーコンサート『音楽史の“パンの耳”〜歴史からはみ出した音楽たち〜』も予定されており、当講座のハイライトになるだろう(2025年5月から2026年3月まで全10回開催)。

『リコーダーと音楽史〜当事者としての物語の紡ぎ方』菅沼起一

すでにメイプルホールの名物講座となっている布施砂丘彦の『箕面おんがく批評塾』は、コンパクトな全2回のサマースクールに形を変えて継続される。音楽の聴き方を改めて考え直す布施の濃密な講義は好評を博しているが、全8回の全てに参加することが難しいという声も寄せられていた。夏に集中講座として開講される今年は、より幅広い世代が参加しやすいスケジュールとなり、塾生たちのさらなる活性化が期待される(2025年7月26日、27日)。

『箕面おんがく批評塾』布施砂丘彦

また古橋果林がワークショップリーダー、ファシリテーターを務めるこどもプロジェクト『じゆうなおと』も昨年に引き続き開催される。古橋は子供向けアウトリーチのスペシャリストで、現在、阪急沿線の文化ネットワークでメイプルホールと繋がる大阪音楽大学で助手を務めている。西南生涯学習センターのほか、東生涯学習センターでもワークショップを行い、多くの子どもたちに音楽を届ける。一度きりの企画で終わらせるのではなく、プロジェクトを複数年にわたって継続し、子どもたちの音楽に対する関心、好奇心を育んでいくことは、地域ホールに課された重要なミッションのひとつだろう(2025年9月28日)。

『じゆうなおと』古橋果林

カーチュン・ウォン×大阪フィル、イゴール・レヴィット

大阪のオーケストラとの連携も、メイプルホールが続けていくミッションである。大阪交響楽団に続いてメイプルホールに登場するのは、名門、大阪フィルハーモニー交響楽団。指揮を務めるのは今もっとも注目されるマエストロのひとり、カーチュン・ウォンである。プログラムは現在調整中だが、カーチュンが得意とする作品のなかから、メイプルホールの空間に特にふさわしいものが選ばれるとのこと。カーチュン・ウォンは常にリスクを取り、挑戦を恐れない指揮者である。2025年度のキャッチコピー「冒険心を持って」にこれほどふさわしいキャスティングはないだろう(2025年11月6日)。

カーチュン・ウォン©︎Ayane Sato

大阪フィルはオーケストラ公演を行うだけでなく、首席奏者たちによる室内楽公演も提供する。『箕面おんがくア・ラ・カルト』と題する公演には、フルートの田中玲奈とファゴットの久住雅人、ふたりの名手が出演し、箕面でお馴染みのピアニスト、法貴彩子と共演する(2025年9月21日)。

リサイタルにはドイツを拠点に国際的に活躍するロシア生まれのピアニスト、イゴール・レヴィットが登場する。メイプルホールはこれまでにも、ギル・シャハム、レ・ヴァン・フランセ、アレクサンドル・タロー、アンソニー、ロマニウクといった名手たちを招き、箕面と世界が繋がるような公演を制作してきた。プログラムには、レヴィットの深淵な音楽性にぴたりと重なるシューベルトのピアノ・ソナタ第21番、シューマンの4つの夜曲、ショパンのピアノ・ソナタ第3番が選ばれている。レヴィットが首都圏以外のホールでリサイタルを行うのは今回が初めてということもあり、西日本全域からレヴィットの演奏を求めて音楽ファンが箕面に集うことだろう。そうした注目度の高い公演ゆえに、レヴィットのリサイタルはメイプルホールよりも大きな1401席のキャパシティを持つ箕面市文化芸能劇場(2021年8月オープン)で開催される。この演奏会を通して「箕面」の名前が多くのクラシック音楽ファンの目に止まることも、狙いのひとつである(2025年11月27日)。

イゴール・レヴィット©︎Peter Rigaud

この数年間、メイプルホールの躍進は坂入健司郎&大阪交響楽団のブラームス・ツィクルスと共に語られてきた。このプロジェクトが完結した今、メイプルホールは新たなステップへと歩みを進める時期を迎えている。正念場といえる2025年度のシーズンに和田が提示したラインナップは、メイプルホールが地域ホールとしてさらなる高みを目指していくことを高らかに宣言するかのような、挑戦に満ちたものである。FREUDEも「冒険心」を持ったメディアとして、メイプルホールのこれからを追い続けていく。

 

箕面市立メイプルホール
《身近なホールのクラシック》2025年度ラインナップ
冒険心を持って

箕面市メイプル文化財団Webページ:https://minoh-bunka.com

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