葉加瀬太郎コンサートツアー2024 ライブレポート
NH&K TRIO チェンバーミュージック〜moderato〜
この3人だからこそできる“スーパー”な室内楽

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葉加瀬太郎コンサートツアー2024 ライブレポート

NH&K TRIO チェンバーミュージック〜moderato〜

この3人だからこそできる“スーパー”な室内楽

text by 加藤綾子
cover photo by 吉村奈々

公演の目玉となるピアソラ

室内楽をやりたい──音楽ジャンルという壁を軽々と飛び越え、活躍し続けるヴァイオリニスト、葉加瀬太郎の思いから、2023年に本格始動した「NH&K TRIO」。葉加瀬を中心に、ピアノに西村由紀江、チェロに柏木広樹を迎え、学生時代から親交の深い3人が、数千人規模の会場で“スーパー”な室内楽を届けるツアーが、今年も幕を開ける。

ツアー初日の舞台は、東京・立川ステージガーデン。いわゆる「クラシックのコンサート」を想像して行くと、きっと驚くことだろう。金曜日の夜、中高年の男女から小さな子供連れのファミリー層、ポップでおしゃれな出立ちのティーンまで、幅広い客層で会場は溢れかえっていた。

セットリストは、メンバーそれぞれのオリジナル曲とクラシック曲から構成される。後者はクライスラーの《前奏曲とアレグロ》、モンティの《チャールダーシュ》など、“クラシックの名曲”として耳馴染みのある楽曲が揃い踏みだ。

photo by 吉村奈々

開幕、短い映像演出のあと、登場したトリオのメンバー。まず演奏したのは葉加瀬のオリジナル曲《エトピリカ》。一般的なクラシックの室内楽公演とは異なり、かなり距離をとって演奏する3人だが、ピッタリと息の合ったアンサンブルを聴かせる。

《ひまわり》《TODAY for TOMORROW》《少女がみたもの》と、「NH&K TRIO」の各メンバーによるオリジナル曲が、プログラム前半を彩っていく。いずれの楽曲も、テレビ番組やCMなどで聞き覚えがあるものばかり。合間には、葉加瀬太郎節とでも言おうか、恒例の愉快なトークが挟まれていく。ユーモアを絡めながらグッズの販促をする葉加瀬に、七色に輝く“ハカセンス”を持参したファンが応じる一コマもあった。

本公演の目玉は、前半最後に置かれたピアソラの《ブエノスアイレスの四季》だろう。アルゼンチン・タンゴに革新をもたらした作曲家、アストル・ピアソラ。演奏前には、葉加瀬が熱のこもったトークを展開した。若き日のピアソラのポートレートを映しながら、彼の人生について葉加瀬自らが語ることで、作曲家や楽曲への理解を促してくれる。シンプルながら原曲をリスペクトしたアレンジ。ジャンル・レスに活躍する3人が、作品と作曲家に真摯に向き合おうとする姿勢がひしひしと感じられる。彼らのパフォーマンスも会場の空気も、一段と高まったところで休憩へ。

ピアソラについて客席に語りかける葉加瀬太郎。
photo by 吉村奈々

ピアノ三重奏というクラシカルな室内楽編成の妙

後半は、トリオに加えてストリングスが登場。前半では室内楽的に座奏していた葉加瀬が立ち上がり、ソリストの立ち位置につく。引き続きオリジナル曲を交えつつ、クライスラーの《前奏曲とアレグロ》、マスネの《タイスの瞑想曲》、モンティの《チャールダーシュ》といった、クラシックのレパートリーがメインに据えられる。ヴァイオリンとピアノのデュオで演奏されることが多い定番楽曲も、ストリングスとトリオ編成によるアレンジで、新鮮な気持ちで聴くことができた。ゴリゴリのサウンドで仕掛けてくるストリングスと「NH+K TRIO」の激しくぶつかり合うようなアンサンブルは必聴だ。《チャールダーシュ》で、普段ならヴァイオリンのフラジオレットが神秘的に歌い上げるところを、西村がトイピアノでかわいらしく演奏する姿も印象的だった。

葉加瀬のヴァイオリンは、特に低音域の太さ・豊かさが際立つ。太い指でかけられるヴィブラートは幅広く、はっきりとした歌い回しを作っていく。また、西村のピアノが音楽の流れを運び、柏木のチェロがそれを支えるといった場面がたびたび見られ、「ピアノ三重奏」というクラシカルな室内楽編成の妙が伺えるところも本公演のポイントだろう。演奏者同士が目配せしあう瞬間も、舞台後ろの巨大なスクリーンでばっちり見られるのだ。

photo by 吉村奈々

演奏だけでなく演出面も、公演の見どころのひとつだ。楽曲の合間や演奏中、バック・スクリーンには演奏者の表情のアップだけでなく、イメージムービーが流れることがある。明確なストーリーが提示されるわけではないが、視覚的な情報が会場内全体に行き渡ることで、初めて聴く楽曲のイメージを助けてくれそうだ

さて、プログラムの大トリはもちろん《情熱大陸》。前半のMCから、葉加瀬自身も演奏することをさんざん匂わせ、曲名を隠そうともしなかったこのロングヒット曲。ハカセンスを手に、スタンディングした客席の盛り上がりようは、もはや言うまでもない。トリオそれぞれの個性が炸裂するソロ・パートに、客席から飛び交う歓声。まさに演奏者・観客が一体となった空間は、誰もが楽しめることだろう。そして最高潮の中のアンコールで、新曲《moderato》を演奏し、公演は締めくくられた。

photo by 吉村奈々

「NH+K TRIO」の2024年全国ツアー『moderato』は、まだまだ始まったばかりだ。4月12日(金)は愛知、5月6日(月・祝)は熊本、5月11日(土)、12日(日)には横浜で開催されるなど、全国各地でこのトリオに出会うことができる。ぜひ多くの人に足を運んでほしい。

photo by 吉村奈々

公演情報

葉加瀬太郎 コンサートツアー2024
NH&K TRIO スーパーチェンバーミュージック
〜moderato〜

2024年4月12日(金) 愛知県芸術劇場 大ホール
2024年5月5日(日) 福岡サンパレス
2024年5月6日(月・祝) 熊本城ホール メインホール
2024年5月8日(水) ロームシアター京都 メインホール
2024年5月11日(土) パシフィコ横浜 国立大ホール

チケット料金:【前売】全席指定11,000円(税込)【当日】500円アップ

公演詳細:https://taro-hakase.com/blogs/live_info/moderato

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