サントリーホール室内楽アカデミー
フェローが語る、アカデミーでの学びとチェンバーミュージック・ガーデンへの想い【前編】

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サントリーホール室内楽アカデミー

フェローが語る、アカデミーでの学びとチェンバーミュージック・ガーデンへの想い【前編】

text by 八木宏之
cover photo / 撮影:友澤綾乃 提供:サントリーホール

1986年の開館以来、数々の名演の舞台となってきたサントリーホールは、世界中から一流の名演奏家たちを迎え、さまざまな演奏会を企画、制作するだけでなく、次世代を担う音楽家を育成し、そのキャリアを支援することも大切にしてきた。2023年にFREUDEで特集した「サントリーホール オペラ・アカデミー」はそうした活動のひとつだが、「サントリーホール室内楽アカデミー」もまた、サントリーホールの教育プログラムを語るうえで欠かすことのできないものである。

室内楽アカデミーは、音楽大学卒業に準じる専門性を持ち、プロフェッショナルとして羽ばたいていこうとしている若手演奏家が、世界の檜舞台で活躍してきた巨匠たちの指導のもと、室内楽の真髄に迫る学び舎として2010年に開講した。ファカルティ(講師)には、アカデミー・ディレクターの堤剛(チェリスト、サントリーホール館長)を筆頭に、原田幸一郎、池田菊衛、花田和加子(ヴァイオリン)、磯村和英(ヴィオラ)、毛利伯郎(チェロ)、練木繁夫(ピアノ)ら室内楽の名手たちが名を連ねる。フェロー(アカデミー生)たちは、月に1度、2日にわたるレッスンを受講し、秋には富山県魚津市での合宿にも参加する。『サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン』や『とやま室内楽フェスティバル』への出演のほか、アウトリーチ活動も積極的に行われ、日々の学びの成果を披露する場もしっかりと用意されている。

室内楽アカデミーはすでに、葵トリオ(第3期フェローの3人、ピアノ三重奏、2018年ミュンヘン国際音楽コンクール第1位)や、クァルテット・インテグラ(第5・6期フェロー、弦楽四重奏、2022年ミュンヘン国際音楽コンクール第2位および聴衆賞)、ほのカルテット(第7期フェロー、弦楽四重奏、2023年大阪国際室内楽コンクール第2位)など、国際的に活躍するアンサンブルを世に送り出しており、そのレベルは世界水準と言って間違いないだろう。

私はこの3月に室内楽アカデミーのレッスンの様子を見学する機会を得たが、フェローとファカルティの間で交わされる高度な音楽的対話には強く心を揺さぶられた。その日受講したのは、カルテット・プリマヴェーラ(弦楽四重奏)、ポルテュストリオ、トリオ・アンダンティーノ(ピアノ三重奏)の3組。指導にあたったのは、原田幸一郎、毛利伯郎、練木繁夫、3名のファカルティだった。フェローたちは、それぞれチャイコフスキーの弦楽四重奏曲第1番、シューマンのピアノ三重奏曲第1番、ブラームスのピアノ三重奏曲第1番を披露し、その演奏はレッスンの冒頭からすでに高い完成度を誇っていたのだが、ファカルティたちが、弦楽器の指遣いやピアノのペダルの扱い、パート間のアーティキュレーションの統一などについて、ほんの一言、二言アドバイスを与えると、音楽の解像度は驚くほど上がっていった。それは確かにレッスンではあったが、見学していた私は、まるでひとつの演奏会を聴き終えたかのような音楽的充実感に満たされたのだった。

そんな室内楽アカデミーのフェローたちに、アカデミーでの学びや、6月に開催されるチェンバーミュージック・ガーデンへの想いなどを聞くべく座談会を開催した。集まってくれたのは、カルテット・プリマヴェーラの石川未央(ヴァイオリン)、多湖桃子(ヴィオラ)、ポルテュストリオの菊野惇之介(ピアノ)、吉村美智子(ヴァイオリン)の4人。以下はその模様である。

左から菊野惇之介、吉村美智子、石川未央、多湖桃子
撮影:友澤綾乃 提供:サントリーホール

室内楽アカデミーへの道のり

――本日はお集まりいただきありがとうございます。まずは簡単に、それぞれの団体についてご紹介いただけますか。

多湖桃子 カルテット・プリマヴェーラは、同じ桐朋学園大学で学ぶ石川未央、岡祐佳里(ヴァイオリン)、多湖桃子、大江慧(チェロ)の4人で2021年に結成され、毎年このメンバーで室内楽の授業を受けるようになりました。師事していた磯村和英先生に、カルテットとして活動したら? と言っていただき、磯村先生が私たちの明るいキャラクターにちなんで、カルテット・プリマヴェーラ(プリマヴェーラはイタリア語で春の意)と命名してくださいました。

菊野惇之介 ポルテュストリオも、カルテット・プリマヴェーラと同じく、2021年に桐朋学園大学で結成され、ヴァイオリンの吉村美智子さんとチェロの木村藍圭さんが室内楽を組もうと話していたところに私も誘われて、ピアノ・トリオになりました。最初は学内でレッスンを受けていただけでしたが、サントリーホールの室内楽アカデミーに合格した私の兄(クァルテット・インテグラのセカンド・ヴァイオリンの菊野凛太郎)から、そこでの学びがいかに素晴らしいかを聞くようになって、自分たちも室内楽アカデミーにチャレンジしようと決めました。ポルテュストリオ(ポルテュスはラテン語で港の意)という団体名も室内楽アカデミーを受けるタイミングで考えたもので、メンバー全員が横浜出身であったことに加えて、日本から世界へ羽ばたいていきたいという願いも込めて、ポルテュスと名付けました。

カルテット・プリマヴェーラ ©Ayane Shindo

――皆さんは室内楽アカデミーのフェローとして、月に1回、サントリーホールでレッスンを受講していますが、普段はどれくらいの頻度で集まり、どのような練習をしているのでしょう?

石川未央 カルテットはピアノ・トリオと違って基盤となる音程がないので、自分たちで音程や音色を1から作っていかなくてはいけません。レッスンへ行く前にはそうした準備が欠かせませんし、とりわけ本番前には音程を徹底的に見直します。音楽の内容についてはみなで話し合いながら進めていきます。とはいえ、結成してまだ数年の私たちにとっては、ほとんどの作品が初めて取り組むレパートリーなので、まずはレッスンを受けて、先生方のアドバイスを伺ってから、再度自分たちで解釈を深めていくことが多いですね。

吉村美智子 私たちは週に2〜3回、本番が近いときにはほぼ毎日集まって練習をしています。カルテットではメロディ、内声、バスを担当するパートがおおよそ決まっていることが多いですが、ピアノ・トリオではそれぞれの役割を3人でまわしていくので、自分の立ち位置をしっかりと把握するところから練習を始めます。私たちは室内楽アカデミーの月に1度、2日間のレッスンを演奏会の本番だと思って準備しているので、解釈についてはときに意見をぶつけ合って、自分たちの演奏を探究してから、レッスンに臨むようにしています。互いの音楽的なイメージの擦り合わせは特に大事にしていて、かなり細かなところまでディスカッションをしたうえで、先生方に意見を伺うようにしていますね。

ポルテュストリオ ©N.Ikegami

室内楽アカデミーは憧れの存在

――ポルテュストリオは菊野さんのお兄さんの影響で室内楽アカデミーを目指されたとのことですが、カルテット・プリマヴェーラの皆さんはどのようにして室内楽アカデミーを知ったのですか?

多湖 室内楽アカデミーについては、アカデミーでファカルティをされている磯村先生からよくお話を伺っていました。最初に室内楽アカデミーを受けたいと言い出したのは私と石川さんで、その後4人で話し合って、磯村先生にも背中を押していただき、受験を決めました。

――桐朋学園は建学当初から室内楽が盛んな学校として知られていますが、学内でも室内楽アカデミーはよく知られた存在なのでしょうか?

石川 桐朋学園には気軽に室内楽を始めるカルチャーがあるのかもしれません。高校からアンサンブルを組めますし、文化祭での演奏のために結成される団体も多いです。そんな桐朋学園では、室内楽アカデミーは憧れの存在として知られています。私たち第7期は、カルテット・プリマヴェーラとポルテュストリオのほかにも、クァルテット・フェリーチェやクレアール・クァルテットなど、桐朋学園の学生や卒業生がメンバーを務める団体がとても多いので、自分たちも室内楽アカデミーを目指したい! という後輩たちの声はよく聞きますね。

菊野 現役で室内楽の活動をされている先生が多いのも、桐朋学園で室内楽が盛んな理由のひとつかもしれません。実際の演奏経験のなかで培われる本物の生きた技を、日常的に教えていただける環境が桐朋学園にはあると思います。

――そんな豊かな室内楽文化がある桐朋学園ですが、学校と室内楽アカデミーのレッスンにはどんな違いがあるのでしようか?

吉村 音楽大学と室内楽アカデミーのレッスンのなによりの違いは、先生の人数だと思います。桐朋学園では1年間、ふたりの先生に室内楽を教わり、1度のレッスンにいらっしゃる先生はひとりです。そうしたレッスン形式だと、自然と先生に導かれた方向へ向かっていくことが多くなりますが、室内楽アカデミーでは1度に3人から多いときは7人の先生がレッスンにいらっしゃって、多様な意見が飛び交います。そうしたさまざまな考えのなかから、自分たちのやり方を選んでいくのが室内楽アカデミーのレッスンの特徴で、アカデミー生一人ひとりに主体性が求められています。

撮影:友澤綾乃 提供:サントリーホール

後編へつづく

公演情報

サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン(CMG)
会場:サントリーホール ブルーローズ(小ホール)
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/feature/chamber2024/

【カルテット・プリマヴェーラ ポルテュストリオ 出演公演】

プレシャス 1pm Vol.2 
東欧エモーショナル
2024年6月6日(木)13:00〜14:00(12:30開場)

クァルテット・インテグラ
ヴァイオリン:三澤響果/菊野凜太郎
ヴィオラ:山本一輝
チェロ:パク・イェウン
カルテット・プリマヴェーラ(サントリーホール室内楽アカデミー選抜フェロー)
ヴァイオリン:石川未央/岡祐佳里
ヴィオラ:多湖桃子
チェロ:大江慧

スメタナ:弦楽四重奏曲第1番 ホ短調「わが生涯より」
エネスク:弦楽八重奏曲 ハ長調 作品7 より 第3楽章、第4楽章

料金:指定席2,500円 サイドビュー席1,500円 ペア席4,000円(同一公演の指定×2枚)

ENJOY! 室内楽アカデミー・フェロー演奏会 Ⅰ
2024年6月8日(土)11:00開演(10:30開場)

弦楽四重奏:
カルテット・インフィニート(落合真子、小西健太郎、菊田萌子、松谷壮一郎)
クァルテット・フェリーチェ(五月女恵、清水耀平、川邉宗一郎、蕨野真美)
カルテット・プリマヴェーラ(石川未央、岡祐佳里、多湖桃子、大江慧)
ほのカルテット(岸本萌乃加、林周雅、長田健志、蟹江慶行)
ピアノ三重奏:
トリオ・アンダンティーノ(城野聖良、高木優帆、渡辺友梨香)
ポルテュストリオ(菊野惇之介、吉村美智子、木村藍圭)

カルテット・インフィニート
メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲第2番 イ短調 作品13 より 第1楽章

ポルテュストリオ
シューマン:ピアノ三重奏曲第1番 ニ短調 作品63 より 第1楽章

トリオ・アンダンティーノ
ブラームス:ピアノ三重奏曲第3番 ハ短調 作品101 より 第3楽章、第4楽章

カルテット・プリマヴェーラ
モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番 変ロ長調 K. 458「狩」より 第1楽章

クァルテット・フェリーチェ
三善晃:弦楽四重奏曲第3番「黒の星座」

ほのカルテット
ハイドン:弦楽四重奏曲 ハ長調 Hob. Ⅲ:77「皇帝」

料金;指定席1,500円 サイドビュー席1,000円

ENJOY! 室内楽アカデミー・フェロー演奏会 Ⅱ
2024年6月15日(土)11:00開演(10:30開場)

弦楽四重奏:
カルテット・インフィニート(落合真子、小西健太郎、菊田萌子、松谷壮一郎)
クァルテット・フェリーチェ(五月女恵、清水耀平、川邉宗一郎、蕨野真美)
カルテット・プリマヴェーラ(石川未央、岡祐佳里、多湖桃子、大江慧)
ピアノ四重奏:
クレアール・クァルテット(東亮汰、古市沙羅、山梨浩子、三浦舞夏)
ピアノ三重奏:
トリオ・アンダンティーノ(城野聖良、高木優帆、渡辺友梨香)
ポルテュストリオ(菊野惇之介、吉村美智子、木村藍圭)

クァルテット・フェリーチェ
シューベルト:弦楽四重奏曲第14番 ニ短調 D. 810「死と乙女」より 第1楽章

カルテット・プリマヴェーラ
プロコフィエフ:弦楽四重奏曲第1番 ロ短調 より 第1楽章、第2楽章

カルテット・インフィニート
メンデルスゾーン:弦楽四重奏曲第2番 イ短調 作品13 より 第4楽章

トリオ・アンダンティーノ
ラヴェル:ピアノ三重奏曲 より 第1楽章

ポルテュストリオ
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲第3番 ハ短調 作品1-3 より 第1楽章、第4楽章

クレアール・クァルテット
R. シュトラウス:ピアノ四重奏曲 ハ短調 作品13 より 第3楽章、第4楽章

料金:指定席1,500円 サイドビュー席1,000円

CMGフィナーレ 2024
2024年6月16日(日)14:00開演(13:30開場)

ヴァイオリン:原田幸一郎/池田菊衛/渡辺玲子
ヴィオラ:磯村和英
チェロ:堤剛/毛利伯郎
ピアノ:練木繁夫
弦楽四重奏:ヴォーチェ弦楽四重奏団
ピアノ三重奏:葵トリオ
フルート:セバスチャン・ジャコー
クラリネット:吉田誠
ハープ:吉野直子
三味線:本條秀慈郎
サントリーホール室内楽アカデミー選抜フェロー
弦楽四重奏:カルテット・インフィニート(落合真子、小西健太郎、菊田萌子、松谷壮一郎)
ピアノ三重奏:ポルテュストリオ(菊野惇之介、吉村美智子、木村藍圭)
指揮:浦部雪
CMAアンサンブル

モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番 変ロ長調 K. 458「狩」より 第1楽章
ブラームス:ピアノ三重奏曲第2番 ハ長調 作品87 より 第2楽章
中村匡寿:「ミミック」 バルトークの『中国の不思議な役人』のモチーフによる(2024)[世界初演 本條秀慈郎委嘱]
ボルヌ:ビゼー『カルメン』の主題による華麗な幻想曲(フルートとハープによる)
ラヴェル:序奏とアレグロ
マルティヌー:ピアノ三重奏と弦楽オーケストラのための協奏曲 H. 231
エルガー:ピアノ五重奏曲 イ短調 作品84 より 第2楽章、第3楽章
三瀬和朗:『暁月夜』(三味線とチェロによる)

料金;指定席6,500円 サイドビュー席5,000円 U25席1,000円

ポルテュストリオの今後の公演

日本演奏連盟 新進演奏家育成プロジェクト
リサイタル・シリーズTOKYO138
ポルテュストリオ
2024年11月19日(火)19時開演
東京文化会館小ホール
公演詳細:https://www.jfm.or.jp/concert/2024/11/t8.html
最新情報はInstagram @portus_trio Facebook https://www.facebook.com/portustrio

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