サントリーホール オペラ・アカデミー
世界標準の教育をギャップなく日本に届ける育成事業

PR

サントリーホール オペラ・アカデミー

世界標準の教育をギャップなく日本に届ける育成事業

text by 原典子
cover photo 撮影:飯田耕治 提供:サントリーホール

 

世界の舞台で活躍する声楽家やピアニストを目指し、日々研鑽を積む若きアーティストたちがいる。彼らに無償で学びの機会と場を提供しているのが、今回ご紹介する「サントリーホール オペラ・アカデミー」だ。

イタリアからジュゼッペ・サッバティーニ氏をエグゼクティブ・ファカルティに迎え、第一線で活躍する日本人のコーチング・ファカルティのもと、基礎から徹底的に学ぶアカデミーは、音楽大学とも個人教授とも違う「学び舎」。FREUDEでは3回にわたるシリーズ記事で、サントリーホール オペラ・アカデミーの活動とその意義、魅力に迫る。

 『ホール・オペラ®』からはじまったアカデミー

1993年の設立以来、30年にわたって声楽界の人材育成に尽力してきたサントリーホール オペラ・アカデミー。設立の経緯や理念について、同アカデミーのスタッフを務める長谷川亜樹氏(サントリーホール企画制作部副部長)に話を聞いた。

長谷川亜樹氏(サントリーホール企画制作部副部長)

「サントリーホールは1993年から世界的アーティストとの協働による『ホール・オペラ®』公演を開始しました。その際、サントリーホール エグゼクティブ・プロデューサーの眞鍋圭子の提案で、せっかく一流のプロフェッショナルが集結してオペラの舞台を一から作り上げる現場があるのだから、そこに若いアーティストがアンダースタディとして参加し、一緒に勉強してもらえる機会を作ろうということで、サントリーホール オペラ・アカデミーが設立されました。

ですので、最初はホール・オペラ®ありきのプロジェクトで、公演のために来日した指揮者や歌手が、若いアーティストにレッスンをするという形ではじまったものです。その後、ホール・オペラ® が2010年で一旦休止したのを機にアカデミーもスタイルを変え、2011年にサッバティーニ先生をエグゼクティブ・ファカルティにお迎えして、今のスタイルになりました」(長谷川)

アカデミーは、基礎的なテクニックの習得を目指す「プリマヴェーラ・コース」と、同コース修了生がさらに深い音楽表現を磨くための「アドバンスト・コース」の2コースを展開。世界で通用するプロフェッショナルを育成するという理念を、設立当初から大切にしてきた。

「サッバティーニ先生は絶大な人気を誇るテノール歌手として初回のホール・オペラ®からご出演いただき、指導者としてアカデミー設立から関わってくださっています。先生が“良い”と言ったら、もうそれは世界レベルで認められたということ。日本人のコーチング・ファカルティも皆さん海外経験が豊富な方ばかりなので、まさに国内に居ながらにして海外留学ができる環境というのでしょうか。コーチング・ファカルティはかつてアカデミーで指導を受けた出身者がほとんどですし、アカデミーの修了生が現役生のレッスンに遊びに来て、声を聞かせてくれることもあります。そうやってアカデミーの伝統が少しずつ受け継がれていくのを見ると嬉しいですね」(長谷川)

ジュゼッペ・サッバティーニ氏(エグゼクティブ・ファカルティ)

アカデミー事務局のスタッフは長谷川氏を入れて3名、それに眞鍋氏がプロデューサーとして運営にあたっている。スタッフは事務的な連絡だけにとどまらず、厳しいレッスンを受けるアカデミー生の精神的サポートや、社会的マナーのアドバイスまで行なうという。オペラ専門の劇場ではないサントリーホールが、ここまで献身的に人材育成に取り組む理由とは?

「サントリーホール開館のときに、作曲家の芥川也寸志先生が“よきホールは、そこに、よき音楽を育て、よき音楽家たちを育て、そして、そのまわりに、よき聴衆を育てる”という言葉を残してくださいました。私たちは『ENJOY! MUSIC プログラム』というエデュケーション・プログラムを組み立て、3本の柱をもとに活動を展開しています。1本目の柱が次世代の聴衆を育成する子ども向けの事業、2本目がオペラ・アカデミーと室内楽アカデミーを中心とした人材育成事業、3本目がより開かれたホールを目指す普及事業です。

人材育成事業には、若く才能あるアーティストを継続的に支援していくことで、サントリーホールから世界へと羽ばたいたアーティストが、大きく成長して、サントリーホールの主催公演に出演してほしいという願いが込められています。育成だけに終わらず、それがやがてホールの公演に還元される。そういった意味でも重要な位置を占めるプロジェクトとして取り組んでいます」(長谷川)

基礎からしっかり、正しいメソッドで学び直す

「ああ、ここのアカデミーは違うなと、最初から思った」

そう語るのは、オペラ評論家の香原斗志氏だ。サントリーホール オペラ・アカデミーを長年にわたって見続けてきた香原氏に、このアカデミーならではの魅力を語っていただいた。

香原斗志氏(オペラ評論家)
撮影:飯田耕治 提供:サントリーホール

「日本には声楽関係の、いわゆるアカデミーのような組織はいろいろありますが、サントリーホール オペラ・アカデミーで学ぶ若い人たちの歌は、聴いていてストレスを感じない。そこが決定的に違うところだと思います。まだ駆け出しのアーティストですから、もちろん完璧ではありません。けれど、ひとつの目標があって、そこに向かって正しく進んでいる過程であることが伝わってくる。それは基礎からしっかり、正しいメソッドで学んでいるからだと思います。言葉の発音や発声といった基礎ができていないまま、無理に表現をしようとしている歌を聴くのはつらいですが、そういったことがまったくないんです」(香原)

サントリーホール オペラ・アカデミー コンサート(2022年7月)
撮影:飯田耕治 提供:サントリーホール

プリマヴェーラ・コースではイタリア古典歌曲でしっかり基礎を作り、アドバンスト・コースになってはじめてオペラ・アリアを習得する。それぞれ2年間のコースだが、さらにもう2年、コースを習得し直すアカデミー生もいるという。

「まずアカデミーに入ると、イタリア語の7つの発音から専門の指導者のもとで学び直します。それから、息に乗せて自然に声を出すことを身につける。ごくごく基礎的なことですが、ここができていない人がとても多いですね。現在は音大を卒業してからアカデミーに入る人が多いですが、本来であれば海外のように、もっと若いうちから入るのが理想なのでしょう(サントリーホール オペラ・アカデミーは満18歳より応募可)。

海外で活躍している日本の歌手は非常に少ないのが現状です。韓国の若手はどんどん活躍の場を広げているので、アジア人だから不利というわけではないはず。たとえば寿司職人になりたいのにイタリアで学んでいても限界があるのと同様に、オペラ歌手になりたいなら若いうちからヨーロッパで学ぶ必要があります。その点、サントリーホール オペラ・アカデミーは海外とのギャップなく学ぶことのできる貴重な場。ヨーロッパの第一級のものを直接伝えなければ、日本の歌手の能力は高まっていかないだろうという確固とした意識をもって、それを実践しているのがサントリーホール オペラ・アカデミーなのです」(香原)

香原氏がアカデミーを取材してきたレポートを読むと、サッバティーニ氏のときに厳しい指導の様子が生き生きと伝わってくる。基礎から徹底的に叩き直され、カルチャーショックを受けるアカデミー生も多いのではないだろうか。

サッバティーニ氏によるレッスン

「サッバティーニ先生は、基礎ができていないと言って怒りまくることもありますから(笑)。自分に聴かせる前に、コーチング・ファカルティがもっと訓練しなさい、さらにはアカデミー生が個人でもっと勉強しなさいと。それまでずっと自分の声に合っていないレパートリーを歌ってきたことに、アカデミーに入ってはじめて気づく人もいます。それだけ基礎を正しく体得するのは厳しいことなのですが、そこでショックを受けながらも先生たちの言葉を素直に受け入れて、努力できる人がスターになっていきますよね」(香原)

オペラ・ファンならずとも味わってほしい“声の力”

サントリーホール オペラ・アカデミー オペラティック・コンサート(2022年3月)
撮影:池上直哉 提供:サントリーホール

アカデミーから巣立っていった修了生のなかで、とくに印象に残っているアーティストは? と尋ねると、アカデミー生一人ひとりに対する厳しくも愛情に満ちた言葉が返ってきた。

「3月14日の『サントリーホール オペラ・アカデミー オペラティック・コンサート』に出演する迫田美帆(ソプラノ)さんや髙畠伸吾(テノール)さんは以前から知っていますが、アカデミーで頑張って研鑽を積み、今とてもいい歌を歌っていますよね。2021年の『若き音楽家たちによるフレッシュ・オペラ』で《ラ・トラヴィアータ》のヴィオレッタを歌った大田原瑶(ソプラノ)さん、急な代役でアルフレードを歌った石井基幾(テノール)さんも立派でした。『サントリーホール35周年記念ガラ・コンサート 2021』に出演した林眞暎(メゾ・ソプラノ)さんも、最初に聴いたときは少々粗さが目立ちましたが、よくぞここまで成長したなと」(香原)

夢に向かってひたむきに研鑽を積み、悩み、もがきながらも成長していく若きアーティストたちの姿を見ると、熱心なオペラ・ファンならずとも、彼らを応援したくなるのではないだろうか。

「“声の力”というものを、もっと皆さんに知っていただければと思います。楽器のなかで唯一、声だけが人間の肉体そのものが楽器なんですよ。身体中の筋肉を総動員して、その楽器を理想的に響かせるかが重要です。僕はよく歌手をアスリートにたとえてお話しするのですが、もともと持った素質のうえに、どれだけ身体を磨き上げることができるかという意味においてはスポーツと共通するものがあります。また表現においても、野球の大谷翔平選手のような二刀流、つまり声も演技もすごい人もいれば、フィギュアスケートの羽生結弦選手のように、すごく美しい声を転がして歌う人もいる。

しかも、オペラ歌手たちは、人間の複雑な感情やドラマをすべて声だけで伝えるのですから、そんなすごい声の力を味わわないのはもったいないでしょう。一流のアスリートを目指して若い選手が練習をしている光景は美しいですよね。それと同様に、世界の舞台を目指して努力を積み上げているアカデミー生のなかにも、きっと応援したい人が見つかるはず。ぜひそういった視点でも、サントリーホール オペラ・アカデミーにご注目いただければと思います」(香原)

今回の『サントリーホール オペラ・アカデミー オペラティック・コンサート』では、ドニゼッティの《ランメルモールのルチア》と《愛の妙薬》、ヴェルディ《ラ・トラヴィアータ(椿姫)》という人気演目を、“いいとこ取り”で楽しむことができる。あなたの“推し”を見つけに出かけてみてはいかがだろう?

 

サントリーホール オペラ・アカデミー オペラティック・コンサート

2023年3月14日(火)19:00開演
サントリーホール ブルーローズ(小ホール)

ドニゼッティ:オペラ《ランメルモールのルチア》第1幕より
ルチア:萩野久美子
エドガルド:石井基幾
アリーサ:伴野公三子

ドニゼッティ:オペラ《愛の妙薬》第2幕より
アディーナ:岡莉々香
ネモリーノ:髙畠伸吾

ヴェルディ:オペラ《ラ・トラヴィアータ(椿姫)》第1幕・第2幕より
アルフレード:石井基幾
ヴィオレッタ:迫田美帆
アンニーナ:東山桃子

ピアノ:古藤田みゆき
ナビゲーター:朝岡聡

音楽統括:ジュゼッペ・サッバティーニ
原語指導・演技指導:田口道子

【公演詳細はこちら】
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/schedule/detail/20230314_S_3.html

サントリーホール オペラ・アカデミーについて
https://www.suntory.co.jp/suntoryhall/academytopics/opera/

最新情報をチェックしよう!