SiriuS
枠を取り払った、「その先」にあるものを探して
SEVEN STARS in 王子ホール Vol.2

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SiriuS

枠を取り払った、「その先」にあるものを探して

SEVEN STARS in 王子ホール Vol.2

text by 原典子
cover photo by 上野隆文

クラシックを「今」の時代にアップデートする若き音楽家たちのコンサート・シリーズ『SEVEN STARS』(主催:日本コロムビア)。10月7日の王子ホールには、SiriuS(シリウス)が登場する。

SiriuSはテノールの大田翔とバリトンの田中俊太郎によるヴォーカル・デュオ。ふたりとも東京藝術大学声楽科で学び、クラシックの世界で活躍しながら、ミュージカルやポップスなどあらゆるジャンルを歌いこなす。オペラ歌手がクラシックの発声法でポップスを歌うことはよくあるが、彼らの場合はそうではない。ジャンルによるスタイルの違いを感じさせず、ここまでシームレスに、自然に聴かせる歌唱に筆者ははじめて出会った。

2020年2月にデビューしてから約1年半。コロナ禍によりコンサート活動を制限されながらも、2枚のアルバムをリリースし、SNSなどを駆使してファン層を広げてきた。今年9月にはオペラの舞台での共演も経験し、ますます絆を深めたふたりが、チェロの宮田大をゲストに迎えて開催する『SEVEN STARS』公演。コンサートへの意気込みと、未来に描くビジョンを聞いた。

違う個性でありながら、見ている方向は同じ

――ちょうど明日が『メニコンスーパーコンサート2021 歌劇《あしたの瞳》~もうひとつの未来~』の本番ですね。同じオペラのプロダクションにおふたりで出演するのははじめてでは?

大田 ハイライト公演というのは今までもありましたが、全曲版のオペラははじめてです。作曲が宮川彬良さんなので面白い曲がたくさんあって、オペラだけでなくミュージカル、ボサノヴァ、ブルースなどいろいろな要素がちりばめられています。とても楽しい舞台なのですが、歌う方にとってはテクニカルな曲も多くて、稽古のなかで必死に仕上げていった感じですね。

――あらゆるジャンルを歌えるSiriuSにぴったりのオペラですね。

大田 そう思っていただけたら嬉しいです。クラシックやオペラというと、もしかしたら入りづらいと感じてしまう方もいらっしゃるかもしれません。SiriuSはもともとクラシックを専門に学んだ声楽家ではありますが、その活動において「これはクラシック」「これはポップス」といった枠組みを作る必要はないのでは? と思っています。あまり深く考えずに聴いて楽しんでいただいて、「よく分からないけど面白いね」と言ってもらえたらいいなと。音楽ってそういうものかもしれないと思っているので。

田中 今回の舞台を経験してあらためて思ったのは、僕と大田くんはまったく違う個性でありながら、見ている方向は同じだということです。クラシックというジャンル、オペラという舞台だけではなく、それを含めた「なにか」を探そうとしている。そういう意味においては、ふたりで活動する以前から根本的に共通した部分を持っていたのではないかと。

――同じ方向を見ていないと、できないことだと思います。

田中 オペラというのは、まず音を鳴らす身体ありき。つまり「生の楽器=声」を広い会場に響かせる、歌い手の肉体や技術から生まれる音楽だと思っています。それがほかのジャンルになると、マイクを使ったり、オペラとはまた違った身体の使い方や見せ方がありますよね。僕たちはそういった要素も取り入れつつ、どうやったら良いものが作れるかを模索していきたい。もちろん簡単なことではないことも実感していますが、いろいろなことにチャレンジしながら、「その先」にあるものを目指していきたいです。

大田 たとえば僕はオペラとミュージカル、両方の舞台に立たせていただいていますが、歌い方を大きく変えるということはなく、あまり違いを意識せずに歌っています。ただ、俊太郎さんの言うようにオペラはまず音楽ありきで、音楽から物語を作っていくイメージがありますが、ミュージカルは物語から音楽を作っていくイメージでしょうか。SiriuSでは、その両方のアプローチができたらと思っています。

――具体的な歌い方という面で、「ここはこう歌おう」とふたりで綿密に打合せしながら作っていくのでしょうか?

田中 ファースト・アルバム『MY FAVORITE THINGS』はミュージカルや映画の音楽が中心でしたが、声楽の技術的なところからどうアプローチしていけるかについては、ふたりでけっこう話し合いましたね。SiriuSとしてなにができるかを模索しながらの作業でした。

大田 打合せというよりは、実際に歌いながら考えていく感じです。いろいろなパターンを出し合ってみて、「この曲にはこれが合うかな」とか「ふたりで合わせるならこうかな」とか。

生音ならではの響きを届けたい

大田翔

――王子ホールの『SEVEN STARS』公演は当初6月に予定されていましたが、コロナ禍のため10月に延期となりました。6月の時点では、ゲストに宮田大さんのお名前は出ていませんでしたよね?

大田 はい、6月の段階ではゲストを入れずにSiriuSとピアニストだけでコンサートをするつもりでした。それが延期になったので、時間ができたぶん、なにかプラスアルファでできることを考えようということになり、宮田さんにオファーしてご快諾いただいたという流れです。

田中 去年、コロナ禍ですべてがストップしていたときに、コロムビアに所属しているアーティストでリモート合奏をしたのですが、そのときに宮田さんと知り合い、SNSでつながりました。「ぜひいつかリアルでも共演したいですね」というやり取りをしていて、今回それが実現したという。

――男声のデュオにチェロが加わると、音色のうえでチェロはどのような役割を担うのでしょう?

田中 宮田さんは、まず楽譜を読み解いていくときに、横の流れで歌うように演奏する部分と、縦に刻んで演奏する部分を分けて考えるとおっしゃっていました。「歌うように演奏する」という言葉は、いつも歌っている僕らにとっては新鮮で、楽器ならではの言葉だなと。これから実際に音合わせをしていきますが、おそらく宮田さんが歌に寄り添ってくださる瞬間と、器楽的に刻んでくださる瞬間があるのではないかと想像しています。どんなコラボレーションになるのか、今から楽しみですね。

大田 宮田さんは、音楽的にもお人柄的にも包容力があって。今回は大半がSiriuSの楽曲にご参加いただく形になりますが、事前の話し合いのなかでもいろいろなご提案をいただきました。「どういう形でも対応できるから」とのお言葉もいただき、本当に心強い限りです。

――宮田さんは、《星めぐりの歌》と《KiraKira☆星~in Four Languages》で共演されるのですね。

田中 あとはお楽しみということで。

宮田大

――そのほかのプログラムで、聴いていただきたいポイントは?

大田 映画音楽のメドレーは今回のために編曲していただいて、初披露となるので、ぜひお聴きいただきたいです。『ロミオとジュリエット』『ゴッドファーザー』『ニュー・シネマ・パラダイス』という3本の名作映画から《愛のテーマ》とタイトルがつけられたテーマをメドレーにしていただきました。

田中 それから、僕らのユニット名はSiriuSという星にちなんでいますし、セカンド・アルバムのタイトルは『星めぐりの歌』でもありますので、今回は星にまつわる世界観を、いつものコンサートとはちょっと違う趣向でお届けできたらと考えているところです。SiriuSならではのステージングを、どうぞお楽しみに!

――それは楽しみですね。ほかにも今回は《マレキアーレ》《誰も寝てはならぬ》などクラシックの楽曲もプログラムされています。

田中 今回は王子ホールで演奏させていただくということで、生音の良さをお届けできたらというのが選曲の根底にありました。インターネットを通じてSiriuSの音楽を聴いていただいた方に、今度はコンサートホールにお越しいただき、実際に肉体が響いているところを、生の舞台で聴いていただけたらと思います。

大田 これまでのアルバムに収録されている曲のなかでも、クラシカルに歌って映えそうなものを選びました。全編マイクなしで歌う予定です。

ビジュアルから攻めていく表現も

田中俊太郎

――では最後に、おふたりそれぞれが描く今後のビジョンについてお聞かせいただけますか。

大田 俊太郎さんを見ていてすごいと思うのは、サービス精神を大事にしていて、いつも全力でお客さまを楽しませようとしているところ。僕も師匠から「歌手である前にエンターテナーであることを忘れないように」と言われましたが、演奏の技術を磨くと同時に、お客さまにどうやったら楽しんでいただけるかを一所懸命に考えていかなければと思っています。そこからなにか新しい、「枠をはみ出してやろう」という姿勢が生まれるのかなと。
今はオペラとミュージカルで、演奏者もファンも棲み分けがなされている状態で、まったく別のものとして認識されがちですが、僕の目指すところはシンプルにお客さまが面白いと思ったり、感動したりする舞台なので、ジャンルで線引きせずいろいろな舞台に挑戦していきたいですね。そしてお客さまにも「ミュージカルが好きだったけど、オペラも観てみようかな」なんて思っていただけたら最高です。

田中 大田くんはナチュラルにそれができる稀有な才能を持っていると思います。というのも、彼の表現にはビジュアルから攻めていく部分もあって、音楽にビジュアル・イメージが追加されたときに、すごい世界観を見せてくれる、一段上の表現に至るみたいなところがあるのです。舞台の稽古でも、身体で表現をしながら視覚的なイメージを作り上げていく段階で、音楽もすごく変わっていく。大田くんは絵が得意で、セカンド・アルバムのジャケットも描いてくれたのですが、そういうのも関係するのでしょうか。天才ですね。
僕は大学院で近代の日本の歌曲について研究・演奏をしてきたのですが、そういった皆さんにあまりなじみのない楽曲も、SiriuSではビジュアル・イメージもひっくるめて表現してみたりすることで、新たな魅力をお伝えできたらいいなと思います。

――今後のSiriuSの活動をますます楽しみにしております。ありがとうございました!

公演情報

SiriuS(ヴォーカル・デュオ)
《’S Wonderful Concert》
2021年10月7日(木)19:00 開演
東京・王子ホール

ゲスト:宮田大[チェロ]
共演:髙田絢子[ピアノ]

ブロドスキー:ビー・マイ・ラブ~映画『ニューオーリンズの美女』より(編曲:藤満健)
トスティ:マレキアーレ
シューベルト:魔王
ビゼー:聖なる神殿の奥深く~オペラ《真珠採り》より
デンツァ:フニクリ・フニクラ
プッチーニ:誰も寝てはならぬ~オペラ《トゥーランドット》より(編曲:萩森英明)
宮沢賢治:星めぐりの歌
フェイン:右から二番目の星~映画『ピーターパン』より(編曲:藤満健)
フランス民謡:KiraKira☆星~in Four Languages~(編曲:内門卓也)
宮沢賢治:星めぐりの歌(編曲:内門卓也)
ロータ/モリコーネ:愛のテーマ~映画『ロミオとジュリエット』『ゴッドファーザー』『ニュー・シネマ・パラダイス』より(編曲:萩森英明)
ガーシュウィン:天国への階段~ミュージカル《巴里のアメリカ人》より(編曲:追川礼章)

主催:日本コロムビア
問い合わせ先:Mitt Tel.03-6265-3201(平日12:00~17:00)https://www.columbiaclassics.jp/20211007-sirius

■日本コロムビア エグゼクティブ・プロデューサー岡野博行氏より
SiriuSのふたりの歌をはじめて聴いたとき、「こんなヴォーカル・ユニットを待っていたんだ!」と、とても幸せな気持ちになりました。オペラで鍛えられた力強い声と、エンタテインメント性溢れる色気のある表現。そして、ふたりの対照的な個性が合わさったときに浮かび上がる世界は、私たちを非日常の世界へ連れて行ってくれます。今回は、オペラのアリアから歌曲、ミュージカル・ソング、そしてディズニーまで、シリウスの魅力がたっぷり味わえるプログラム。それに、チェロの宮田大が加わるのですから、素晴らしくないわけがありません! みなさん、一緒に夢の世界へ!!

SiriuS(シリウス)
ともに東京藝術大学声楽科卒、テノールの大田翔とバリトンの田中俊太郎によるユニット。卒業後、オペラやミュージカルの舞台でお互いの歌の道を進んでいたなか、偶然再会をしたふたり。たまたまふたりで交わしたハーモニーが「セクシーヴォイスすぎる」と話題になったことをきっかけに結成。
クラシックの枠を飛び越えて、ミュージカルから映画音楽、ジャズなど、多彩なナンバーを英語、日本語で歌唱。クラシカルな格調とエンタテインメント性を兼ね備えた、新たなスターの誕生として話題を呼んでいる。
オフィシャルサイト https://siriusduo.jp/

大田翔 Sho Ota
テノール
東京都出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業、同大学院音楽研究科修士課程オペラ専攻修了。
オペラでは《愛の妙薬》ネモリーノ、《椿姫》アルフレード、《ドン・ジョヴァンニ》ドン・オッターヴィオ、《蝶々夫人》ピンカートン、《カヴァレリア・ルスティカーナ》トゥリッドゥ、《仮面舞踏会》リッカルド、《メリー・ウィドウ》カミーユなどで出演。宗教曲ではプッチーニ《グローリア・ミサ》、ベートーヴェン《荘厳ミサ》、ビゼー《テ・デウム》などのソリストを務める。
ミュージカルでは、2016年《ピアフ》イヴ・モンタン(東宝)、《ウエストサイド物語》トニー(劇団四季)、2017年《レ・ミゼラブル》(東宝)、2018年《シークレット・ガーデン》(東宝)、《ピアフ》イヴ・モンタン(東宝)、2019年《You’re a Good Man, Charlie Brown》シュローダー、《ホンク!》キャット、《ラ・テンペスタ》ファーディナンド、メニコンオリジナルミュージカル《あしたの瞳》《キミのために散る》で主演を務める。
近年、舞台活動のほか、宮城、熊本、宇和島などで、復興応援のソロ・コンサートを行なっている。

田中俊太郎 Shuntaro Tanaka
バリトン
島根県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業、同大学大学院音楽研究科修士課程独唱専攻、同博士後期課程修了。博士(音楽)の学位を取得。声楽を森山秀俊、福島明也、ジャンニコラ・ピリウッチ、林康子の各氏に師事。
英国オールドバラ音楽祭においてイギリス歌曲のマスタークラスを受講。宗教曲ではJ.S.バッハ《マタイ受難曲》《ロ短調ミサ》、ヘンデル《メサイア》、ヴェルディ《レクイエム》などでソリストを務める。オペラでは《愛の妙薬》ベルコーレ、《ドン・ジョヴァンニ》タイトルロール、《椿姫》ジェルモンなどを演じる。
橋本國彦《三つの和讃》、江文也《生蕃四歌曲集》を藝大フィルハーモニア管弦楽団と共演するなど、日本の音楽作品の研究・演奏に取り組む。またミュージカル作品や《東京ディズニーリゾート35周年“Happiest Celebration!”イン・コンサート》など、エンターテインメントの舞台にも出演。
2017年度、三菱地所賞受賞。

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