クラシック音楽とクラブミュージックを接続する
『爆クラ』100回記念フェス

クラシック音楽とクラブミュージックを接続する

『爆クラ』100回記念フェス

text by 小林沙友里

先ごろショパン国際ピアノコンクールで第2位を獲得したピアニストの反田恭平、“次世代のトスカニーニ”との呼び声も高い指揮者のアンドレア・バッティストーニといったクラシック好きにはおなじみの面々から、デトロイト・テクノのパイオニアであるジェフ・ミルズ、映画監督の岩井俊二、お笑い芸人の村本大輔などなど。多彩なゲストとともに、著述家・プロデューサーの湯山玲子がクラシック音楽の新しい聴き方を提案してきたトーク&リスニングイベント『爆クラ』が100回目を迎える。

それを記念して、5月3日(火・祝)に『爆クラは祝100回なのだ クラブ耳クラシック&現代音楽フェス』を開催。15:30から23:00まで、渋谷PARCOの屋上と9階のSUPER DOMMUNEスタジオに、クラシック音楽の新たな実験場が出現する。

クラバーにクラシックを!
NYのクラブから始まった『爆クラ』

湯山女史は、クラシック畑で活躍する両親のもとに生まれ育つ(父は作曲家の湯山昭)も、ロックやソウル、テクノに傾倒。30代後半で編集者としてニューヨークのハウスシーンを取材していたとき、伝説のクラブ「Twilo(トワイロ)」で最強サウンドシステムのもと踊っていると、ハウスミュージックがクラシックにしか聞こえない瞬間が訪れたという。

「DJのミックスっていろんな音を隠し持っていて、一つのフレーズの流れを違う楽器がバトンタッチしてつなげていく。それって交響曲の手法だったりするんですよね。隣で半裸で激しく踊っているお兄さんこそ、ブルックナーやマーラーを理解できるんたろうな。こういう人たちにクラシックが全然届いてないな、と思ったんです」(湯山)

そんなきっかけからスタートした『爆クラ』。そのタイトルは「爆音クラシック」の略で、「クラブ仕様の豊かな音量のサウンドシステムで聴くクラシック」を意味している。ほぼ月一回のペースで、テーマ設定のもとに選ばれた音楽を聴きつつ、ゲストとともに曲自体や周辺の文化、社会状況などを語っていくというスタイル。テーマはモーツァルトのような作曲家から、エロス、エキゾチック、美少年、お笑い、フーガの技法まで多種多様。クラバーもさることながら、クラシックファンにとってもクラシック音楽を新たな角度から楽しめる内容ばかりだ。ちなみに2011年5月に行われた1回目でフィーチャーしたのは、ショスタコーヴィチだった。

「ショスタコーヴィチは体制による圧力からのねじれを持ちつつ、それをも生かした優れた作品を残してきた作曲家。彼の交響曲第10番を聴けば、今起こっている戦争とそれを取り巻く環境のすべてが体感できます。それは涙も哄笑もすべてが詰まった、流行りのメタバースの仮想空間もぶっ飛ぶようなスケール。今回はそういったクラシック音楽を頭でなく体で体感できる、たぶん日本唯一の実験場になるはずです」(湯山)

『爆クラ』を主宰する湯山玲子

クラシックをはじめ各界の才能が渋谷でクロスオーバー

今回のフェスでまず注目したいのは、SUPER DOMMUNEスタジオの良質なサウンドシステムをフル使いしたクラシック音楽縛りのクラブイベント「クラシック・ディスコティーク!!!」。指揮者の坂入健司郎、音楽評論家の鈴木淳史らがDJとなり、ビートを合わせるにとどまらず、「この曲はト長調でこうくるから、ここでト長調のあの曲をつなぐ」といった高度なミックスをかけてきたりする。レアなプレイをドラァグクィーンたちと愉しみたい。

「クラシック・ディスコティーク!!!」でDJを務める指揮者の坂入健司郎

『爆クラ』のメインコンテンツであるトークには、アーティスト集団「Chim↑Pom from Smappa!Group」のエリイを迎えて、彼女のクリエイティヴの根幹にある聖と俗感覚をクラシックとともに語るほか、ポップス、文学の気鋭の論者によるトークセッションで、「クラシックの明日はどっちだ!」を探る。

トークに登壇するエリイ

渋谷の屋上を舞台にしたコンサートも充実。オペラユニットのTHE LEGENDがリビドーほとばしる衝撃的な歌詞の男声合唱曲《ゆうやけの歌》(湯山昭作曲)をサンセットタイムに響かせるほか、吉井瑞穂(オーボエ)によるテレマン《12のファンタジー 第8番》、池上英樹と松下洋による《マリンバとアルトサクソフォーンのためのディヴェルティメント》(湯山昭作曲)、秋田勇魚(ギター)による情熱的な演奏など、趣向を凝らしたラインナップとなっている。

また、昼間の屋上では、5月の空をクラシックサウンドでトラック。細井美裕(サウンドアーティスト)と松丸契(サクソフォーン奏者)による5時の時報を取り入れたインスタレーションも要注目。子どもとも楽しめそうなヴァイオリン、チェロ、ギター、声楽の体験講座も行われる。

当日はDOMMUNEならではのライヴストリーミングも行われるが、多くは体験型。今回、急遽イベントが決まった! という知らせとともに記されていたのは、「劫初より作りいとなむ殿堂に われも黄金の釘ひとつ打つ」という与謝野晶子の歌だったのだが、この日渋谷に赴けば、アジールな立ち位置から日本のクラシック音楽事情に少なからず影響を与えてきた『爆クラ』が、黄金の釘を打つ瞬間に立ち会えそうだ。

タイムテーブルやチケット情報など詳しくは公式サイトでご確認を。

 

『爆クラは祝100回なのだ クラブ耳クラシック&現代音楽フェス』
5月3日(火・祝)
昼の部 15:30〜17:00/夜の部 16:20〜22:45
会場:東京都渋谷区宇田川町15-1 渋谷PARCO 9F DOMMUNE/10F 屋上、ComMunE
入場料:昼の部 無料/夜の部 ¥3,000(入退場自由)+¥700(ドリンク代)
公式サイト https://www.bakucla.com/100fes

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