[メイプルホール座談会]
大阪のホール企画制作担当者が語り合う
公立と民間の現状、担う役割と描く展望
text by 原典子
FREUDEではこれまで、箕面市立メイプルホールの《身近なホールのクラシック》の取材を通して、東京以外の地域における公共ホールの取り組みの一端を紹介してきた。今回は、大阪市内の民間(私立)の小・中規模ホールの企画制作担当者を迎え、3つのホールのスタッフによる座談会をお届けする。
近年、新しいホールや劇場がオープンして活況を呈すいっぽう、行政による文化事業への支援は十分とは言えない大阪。こうした状況のなかで、ホールの企画制作担当者はなにを考え、どのような展望を描いているのか。大阪のクラシック音楽シーンの現在地を探る。
[座談会参加者]
住友生命いずみホール
企画営業部チーフプロデューサー 梅垣香織あいおいニッセイ同和損保 ザ・フェニックスホール
チーフマネージャー 宮地泰史箕面市メイプル文化財団(箕面市立メイプルホール)
芸術創造セクションマネージャー 和田大資
公立のコンサートホールがない大阪市
――はじめに、それぞれのホールの特色についてお聞かせください。
梅垣 住友生命いずみホール(以下、いずみホール)は1990年オープン、大阪市中央区に位置する、客席数821席の中規模ホールです。企画性を大切にしており、主催公演は年間30公演ほど。「音楽学者のいるホール」というのが私たちの特色のひとつで、開館以来礒山雅さんと歩み、現在は堀朋平さんとともに独自性の高い企画の発信を目指しています。また、2000年からは作曲家の西村朗さんの提唱により、現代音楽の演奏を中心とするいずみシンフォニエッタ大阪が活動を開始し、2024年には藤倉大さんが新音楽監督に就任しました。

宮地 あいおいニッセイ同和損保 ザ・フェニックスホール(以下、ザ・フェニックスホール)は、1995年にオープンした大阪市北区のホールです。客席数は最大で335席、室内楽を中心とした小規模ホールで、主催公演は年間15公演ほど。近年は現代音楽などにも力を入れています。

和田 箕面市立メイプルホール(以下、メイプルホール)は、1988年オープン、客席数は501席です。メイプルホールはクラシック専用ではなく多目的ホールですが、いずみホール、ザ・フェニックスホールは「クラシック専用ホール」なのでしょうか?

宮地 ザ・フェニックスホールは「クラシック専用」とは謳っていませんが、実際にやっている公演はほぼクラシックといった状況です。とはいえ最近は、ジャズやポップスのアーティストのコンサートも増えてきました。
梅垣 いずみホールは生音をお楽しみいただくというのがコンセプトとしてあるので、「クラシック専用」と言えると思います。
――メイプルホールが地方自治体により設置された公立ホールであるのに対し、いずみホールとザ・フェニックスホールは民間の企業によって開設されているホールです。大阪には民間のホールが多いとよく聞きますが、実態はどうなのでしょうか?
梅垣 大阪「市」には公立のコンサートホール(クラシック専用の音楽ホール)がないんです。
――ない?!
梅垣 大阪府内にはもちろん、箕面市、豊中市、高槻市、堺市など、各地に素敵な市立のホールがたくさんありますし、今まさに建築中のホールもありますが、大阪市内に限って言うと、公立のコンサートホールがひとつもないというのが現状です。
――それが大阪市の文化政策の方針なのでしょうか?
宮地 そもそも大阪には昔から「文化は民間に任せる」「旦那衆が文化を支える」といった風潮が色濃くありました。たとえば、大阪市立美術館は民間から寄贈された敷地に建てられましたし、市民からの寄贈品が収蔵品の中核を担う美術館も多くあります。それは素晴らしいことではありますが、同時に、公は民間の邪魔をしない、民業圧迫をしないということが前提になっていると思います。
大阪市内にはフェスティバルホールやザ・シンフォニーホールといった大きな民間ホールがあるので、ここに公立ホールを作ると民業を圧迫すると考えたのかもしれません。けれど東京には、東京文化会館や東京芸術劇場のような公立ホールと、サントリーホールやオーチャードホールのような民間ホールが共存していますよね。大阪は「府立」のコンサートホールもありません。
地域との連携のあり方をめぐって
――大阪市内に公立ホールがないということは、メイプルホールの《身近なホールのクラシック》のような、地域とコンサートホールをつなぐ取り組みは行なわれていないということなのでしょうか?
梅垣 いずみホールとしても、文化庁や大阪府、大阪市などから助成をいただいておりま
すので、社会における公共ホールの役割を少しでも担えるよう、地域と連携する企画も考えております。おこがましいようですが、大阪市民の皆さまに音楽で貢献できたらという気持ちで活動しています。

宮地 ザ・フェニックスホールは小規模ホールであり、「音楽文化の普及」というコンセプトが大きな軸としてありますので、地域と連携するにしても、少し違った角度からアプローチできないかと考えています。
たとえば、今いちばん関心をもっているのは、大阪のビジネス街で働く人たちの誘客です。どうやったらビジネスパーソンがコンサートホールに足を運んでくれるようになるのか、いろいろと考えました。でも結局は、「こういうものに興味をもつのではないか、もってほしい」といった我々の論理でアピールしても、ターゲットには響かないことがわかりました。そこで逆に、ビジネスパーソンが求めているものはなんだろう? ということから考え、リベラルアーツ関連の著作などでビジネスパーソンに支持されている山口周さんをお呼びして、レクチャーをしていただくことに。ターゲットと接点をもつには、自分たちから向こう側に入らなければならないと考えました。

和田 それはとても面白い試みですね。ところで、民間ホールの皆さんにお聞きしてみたいことが、親会社との関係性です。住友生命やあいおいニッセイ同和損保から、ホールの事業内容に関するディレクションはあったりするのでしょうか?

梅垣 うちはまったくないです。そこはもう、信頼してお任せいただいていると思っています。住友生命から出向してくる上司は必ずしも音楽に造詣が深いとは限りませんが、コンサートを聴いてポジティブな感想を言ってくれますし、「こんなにいいコンサートなのに、お客さまが少なくて残念だね」と言われてしまうことはありますが、チケットの売上だけを見られることはありません。
宮地 同様に、親会社からのディレクションはありません。だからこそ、ホールの活動における社会貢献的な意味合いを、こちらからアピールしないといけないとは思っています。昨年から大阪府立夕陽丘高校音楽科と新たな取り組みを始めました。生徒自身がコンサートを企画することについて、授業としてどのように指導できるかを同校の先生方と一緒に考え、実際に授業で指導を行ないました。
アーティストと一緒に企画を作ること
――大阪全体の話に戻りますが、昨年の大阪・関西万博の前後で大阪府内では新しいホールが次々オープンしています。ここ5年ぐらいの間に感じている、大阪のクラシック音楽シーンをめぐる変化はありますか?
和田 北大阪急行電鉄南北線の延伸にともなう再開発事業の一環として、2021年に箕面市立文化芸能劇場(現在の名称は東京建物 Brillia HALL 箕面)がオープン、その前後数年の間に、大阪府内のいたるところに新しい市立のホールがオープンしました。
その影響がどのように出ているのか、具体的な数値まではわかりませんが、「歳をとって大阪市内まではコンサートを聴きに出かけられなくなったけれど、地元に音響のいいホールができたから、そこで聴いている」といった音楽ファンの声をよく聞きます。堺市や枚方市のホールでは海外オーケストラの公演などもしていますし、大阪市内のホールで聴いていたお客さんが、地元のホールに行くという流れは出てきているのではないでしょうか。

――大阪市内のホールとしては、そのような動きは感じられますか?
梅垣 大阪市外からのお客さまが減ったということは、今のところ数字としては出ていませんが、大阪府内に新しい公立ホールがたくさんできたことは、私たちにとって大きな変化のひとつです。お客さまがいずみホールになにを求めていらっしゃるかということを、あらためて考えるきっかけを与えていただいたと思っています。
ホールを借りるお客さまにとっては、公立ホールの方が利用料が圧倒的にリーズナブルで、しかも施設も新しいわけです。それでもいずみホールを使ってくださるお客さまは、スタッフのホスピタリティやチケットシステムの利便性といったところに魅力を感じていただいていることが、アンケートなどを通してわかっています。これからもお客さまの声を聞き、どこに注力すべきかを考えていきたいです。
宮地 我々も利用料で言ったら、公立ホールと比べるとやはり高いです。そういった状況でより重要になってくるのは、ホールとしてのブランドをどう確立していくかということだと思います。
そのためには、アーティストやマネジメントと一緒にコンサートの企画を作っていくことも大切ではないでしょうか。私は以前、公立ホールで働いていたので、地域住民の目線に立った企画が重視されるのはよくわかります。けれど、逆にアーティストの目線に立った企画というのは、公立ホールではなかなか受け入れられません。
――アーティストの目線に立った企画は、ときにエッジのきいたものもありますものね。
宮地 現代音楽などでは多いですね。だからこそ我々は、公立ホールではやりにくいところをあえて攻めていく。アーティストと一緒に企画を作り、ホールをブランディングし、アーティストにとってはザ・フェニックスホールでの公演がステップアップの機会となる。そうすることで大阪のクラシック音楽シーンを面白くしたい、大阪から新しい文化を発信していきたいと思っています。

梅垣 アーティストと一緒に企画を作る、ということは私たちも意識していますね。15年ぐらい前までは、著名なアーティストにご出演いただくことが、ホールのブランディングになっていました。今は、いずみホールと一緒に歩んでくださるアーティストを探して、なにをしたいかをお互いに腹を割って話し合いながら、いろいろな企画を作っています。
たとえば、ピアニストの小菅優さんや指揮者の山田和樹さんとの対話や、彼らからいただいた提案が、企画を作っていくうえで大きなヒントになりました。藤倉大さんからは、若いお客さまにいかに関心を持っていただくか、こちらが楽しんでいる姿を伝えることの大切さを学びました。

宮地 ここ2〜3年でとくに強く感じているのは、クラシックの新しい潮流です。角野隼斗さんや反田恭平さんをはじめ新しい世代のアーティストが出てきて、YouTuberとして人気になったアーティストがザ・フェニックスホールでコンサートをしてくださることも。若い聴衆にどうアプローチするかは、クラシック業界をあげて考えなければならないことですから、こういった新世代のアーティストとも企画を作っていきたいですね。
和田 梅垣さんと宮地さんという、大阪のなかでも個性が際立つホールの企画制作担当のおふたりとお話させていただけてよかったです。公立と民間という違いはあれど、アーティスト一緒に企画を作ろうという姿勢は私も同じです。ときにはライバル、ときには仲間として、お互い連携し合って、大阪の音楽シーンを面白いものにしていきたいですね。
――今日はありがとうございました!
関連サイト
住友生命いずみホール
https://www.izumihall.jpあいおいニッセイ同和損保 ザ・フェニックスホール
https://phoenixhall.jp箕面市メイプル文化財団(箕面市立メイプルホール)
https://minoh-bunka.com