クリストフ・エッシェンバッハ&ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団 日本ツアー2023
ようやく出会えた理想のパートナーとのブラームス

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クリストフ・エッシェンバッハ&ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団 日本ツアー2023

ようやく出会えた理想のパートナーとのブラームス

text by 八木宏之
cover photo ©Marco Borggreve

就任以来初となる待望の日本ツアー

クリストフ・エッシェンバッハとベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団のコンビが待望の日本ツアーを行う。エッシェンバッハがベルリン・コンツェルトハウス管の首席指揮者に就任したのは、2019年秋のこと。エッシェンバッハはシェフに就任してすぐにブラームスの交響曲ツィクルスをスタートし、そのライヴ・レコーディング(第2番と第4番は新型コロナウイルスの影響により無観客ライヴ)は、世界中の音楽ファンから高い評価を獲得した。今回の日本ツアーのプログラムも、ブラームスの4曲の交響曲を中心に構成されている。

ブラームスの交響曲は、エッシェンバッハが指揮活動を開始した当初から大切にしてきたレパートリーだ。1991年から1993年にかけて録音されたヒューストン交響楽団との最初のブラームスの交響曲全集や、2005年にサントリーホールでライヴ録音されたシュレスヴィヒ=ホルシュタイン祝祭管弦楽団との交響曲第4番は、エッシェンバッハの代表的な名盤として知られる。2017年と2020年には、NHK交響楽団とブラームスの交響曲全曲、ピアノ協奏曲第2番(ピアノはエッシェンバッハの盟友ツィモン・バルト)、ピアノ四重奏曲第1番(シェーンベルクによる管弦楽編曲版)を演奏して、熱狂を巻き起こしたことも記憶に新しい。

ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団を指揮するクリストフ・エッシェンバッハ ©Co Merz

エッシェンバッハは、アメリカのオーケストラ、日本のオーケストラ、多国籍の若手演奏家で構成されるオーケストラなど、さまざまな個性を持ったオーケストラとブラームスを演奏してきたが、ゆったりとしたテンポで、オーケストラをたっぷりと鳴らし、弦楽器と管楽器が柔らかく溶け合った響きを基調とするアプローチはどの演奏でも一貫している。ピリオド奏法に影響を受けた、切れ味鋭いブラームス演奏が主流になりつつある今日において、ノスタルジアが顔を覗かせるエッシェンバッハの古雅なブラームスは貴重なものだろう。スコアの細部までクリアに浮かび上がらせる最先端のブラームスも刺激的で面白いけれど、身体の奥底から鳴り響いてくるような、重厚でスケールの大きいエッシェンバッハのブラームスにはなにものにも代え難い魅力がある。

ベルリン・コンツェルトハウス管は、そんなエッシェンバッハのブラームスに理想的なパートナーと言えるだろう。エッシェンバッハが長年にわたって追い求めてきたブラームスの響きは、ベルリン・コンツェルトハウス管が東ドイツ時代から守り続けてきた響きにぴたりと重なる。だからこそ、エッシェンバッハは着任早々、ブラームスの交響曲の全曲演奏に取り組んだのだ。このことからも、エッシェンバッハがいかにベルリン・コンツェルトハウス管のサウンドに惚れ込んでいるかがわかる。

ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団 ©Marco Borggreve

五嶋みどりと佐藤晴真、個性豊かなふたりのソリスト

ブラームスと併せて演奏されるウェーバーの《魔弾の射手》序曲も、ベルリン・コンツェルトハウス管にふさわしいレパートリーだ。ドイツ・オペラの歴史において、モーツァルトとワーグナーを繋ぐのがウェーバーであり、その代表作が歌劇《魔弾の射手》である。ベルリン・コンツェルトハウス管が本拠地にしているベルリン・コンツェルトハウス(2006年以前はシャウシュピールハウスと呼ばれていた。ホールの改称に伴い、ベルリン・コンツェルトハウス管もベルリン交響楽団から現在の名称に変更された)は、1821年6月18日に歌劇《魔弾の射手》が初演された場所であり、オーケストラにもそうした歴史が息づいている。オペラのエッセンスが詰まった序曲は、ドイツの森の深い緑を思わせる音楽で、ベルリン・コンツェルトハウス管の古き良きドイツ・サウンドの魅力が最大限に引き立つはずだ。

今回の来日ツアーには、ふたりのソリストが登場する。1人目はヴァイオリニストの五嶋みどり。五嶋は日本を代表するヴァイオリニストという枠を遥かに超えて、世界のMidoriとして国際的に活躍している。五嶋とエッシェンバッハの初共演は、1991年のヒューストン響の演奏会でのパガニーニのヴァイオリン協奏曲第1番。それ以来30年にわたって、ふたりは世界各地で共演を重ねてきた。今回の日本ツアーのためにふたりが選んだのは、シューマンのヴァイオリン協奏曲。最晩年のシューマンが狂気と闘いながら書き上げた、凄まじい作品である。真に円熟した演奏家でなければ、シューマンが音楽に込めたメッセージを読み解き、聴き手に伝えることはできない。ゆえに演奏される機会はそれほど多くないが、五嶋とエッシェンバッハほど、この作品にふさわしいコンビはいないのではないか。私は五嶋とエッシェンバッハによるシューマンのヴァイオリン協奏曲を、ブラームスの交響曲と同じくらい楽しみにしている。これは今回のツアーのひとつのハイライトになるだろう。

五嶋みどりとクリストフ・エッシェンバッハ

2人目のソリストはチェロの佐藤晴真だ。2019年に世界最難関のミュンヘン国際コンクールで日本人初の優勝を果たして以来、ソロ、室内楽、レコーディングと活躍の幅を広げている佐藤は、今もっとも注目すべき弦楽器奏者のひとりと言って良いだろう。エッシェンバッハを敬愛している佐藤は、2022年にエッシェンバッハが来日した際に、演奏を披露する機会を得て、今回の初共演へと繋がった。若手演奏家の背中を押すことをライフワークにしてきたエッシェンバッハが、日本の若き俊英との初共演に選んだのはドヴォルザークのチェロ協奏曲。佐藤は尊敬する巨匠から大いに刺激を受けながら、チェリストが避けては通れない名曲に新たな命を吹き込む。エッシェンバッハが佐藤という若き音楽家を応援するように、ブラームスもまたドヴォルザークの才能を大いに買って、支援を惜しまなかった。そうした点でも、今回の日本ツアーにぴったりの選曲である。

佐藤晴真 ©Seiichi Saito

スター・ピアニストだったエッシェンバッハが指揮活動をスタートさせたのは1972年のこと。それから50年の歳月が過ぎ、エッシェンバッハは21世紀を代表するドイツ音楽の大家となった。83歳のエッシェンバッハが、自らの集大成となるブラームスを日本の音楽ファンに披露するこの機会を、どうか聴き逃さないで欲しい。

クリストフ・エッシェンバッハ&ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団
日本ツアー2023 ブラームス交響曲全曲ツィクルス

2023年5月9日(火)
東京オペラシティ コンサートホール
開演:19:00(開場:18:20)
ツィクルス1

クリストフ・エッシェンバッハ(指揮)
ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団(管弦楽)
佐藤晴真(チェロ)

ウェーバー:歌劇《魔弾の射手》序曲
ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調 作品104
ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 作品73

2023年5月10日(水)
横浜みなとみらいホール 大ホール
開演:19:00(開場:18:20)
ツィクルス2

クリストフ・エッシェンバッハ(指揮)
ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団(管弦楽)

ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調 作品90
ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68

2023年5月11日(木)
サントリーホール
開演:19:00(開場:18:20)
ツィクルス3

クリストフ・エッシェンバッハ(指揮)
ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団(管弦楽)
五嶋みどり(ヴァイオリン)

ウェーバー:歌劇《魔弾の射手》序曲
シューマン:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調
ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 作品98

そのほか5月13日(土)に福岡公演、5月14日(日)に名古屋公演あり。
ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団 日本ツアー2023の詳細はこちらをご覧ください。

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