古澤巖が山本耕史と追求するあたらしい表現のかたち
『Dandyism BanquetⅡ』に込められた想い

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古澤巖が山本耕史と追求するあたらしい表現のかたち

『Dandyism BanquetⅡ』に込められた想い

text by 本田裕暉

演奏会でも演劇でもない、既存の枠組みを超越したまったくあたらしいステージのかたち、『Dandyism Banquet(ダンディズム・バンケット)』。ジャンルを問わず多彩な演奏活動を繰り広げるヴァイオリニスト古澤巖と、10歳のときに『レ・ミゼラブル』日本初演に参加して以来、数多の舞台を踏んできた俳優山本耕史によるコラボレーション第2弾『古澤巖×山本耕史 コンサートツアー Dandyism BanquetⅡ』が、もう間もなく2024年1月8日(月・祝)に幕を開ける

シェイクスピアや近松門左衛門、太宰治らの「言葉」と、音楽監督の塩谷哲を中心に選りすぐった「音楽」とが織り成す独自の世界観が話題を呼んだ前回ツアーから約1年。さらなる進化を遂げた舞台に臨もうとする古澤巖に『ダンディズム・バンケット』に込められた想いについて、じっくりと話を聞いた。

古澤 巖

言葉と音楽

――今回のツアーに向けて公開されたメッセージ動画で、山本耕史さんは「演劇でもなくコンサートでもなく、パフォーマンスではあるんですけれども本当に新しい空間。それこそが『ダンディズム・バンケット』」と仰っていました。『ダンディズム・バンケット』について、改めてご説明いただけますか?

以前、カルロス・クライバーの指揮するプッチーニの歌劇《ラ・ボエーム》を大友(直人)くんと一緒に客席で聴いたことがあるのですが、そのときに、きらきらと夢のように美しい、「嘘だろこれ」と思うような響きが聞こえてきたんです。「指揮者はいったい何と言って奏者に弾かせているんだろう?」と思いました。僕はクライバーとは手合わせをしたことがないから分からないけれど、バーンスタインやチェリビダッケとは共演したことがあって、そういったときにも、彼らはこの曲のこのフレーズを振るときに(リハーサルで)どんなことを言うだろう、と考えながら演奏していました。

――クラシックの現場で音楽をつくり上げる際にも「言葉」が果たす役割は大きい、と。

一方で、『ダンディズム・バンケット』には山本耕史さんがいるわけです。彼は音楽について説明するわけではないけれど、目の前で動いて、何かを語る。その言葉が音楽と合体したときの威力は凄まじいものがあります。例えば、映画で俳優が語るちょっとした台詞や動きに合わせて音楽が鳴っているのといないのとでは全然違いますよね。何かがパチッとはまると、涙があふれたり、ゾクゾクしたりするわけです。山本さんがステージで動いて、語ってくれることによって音楽だけではたどり着けない世界に行くことができるのですね。

山本さんは、どのタイミングで音楽に乗ればそうした効果が生み出されるのかを、まるで指揮者のように探りに来てくれるタイプの人で、彼が音楽の何かを完成させるんです。音楽はけっして音楽だけでは完結しないし、かといってお客さんは指揮者の動きを見て感動しているわけではない。指揮者の動きで感動するのはむしろ演奏者なんですね。奏者が感動すれば、素晴らしい響きが生まれる。「音楽+動き」で、神がかった何かが起こる。もし山本さんがいなかったら『ダンディズム・バンケット』もいわば「ただの音楽会」、世の中にたくさんあふれているコンサートのうちのひとつなんです。

山本耕史とともに(前回ツアーのステージより)

山本耕史というキャラクター

――演奏者をも共感・共鳴させることで、唯一無二の世界をかたちづくる。山本さんはそういった意味でのキーマンなのですね。

「三人寄れば文殊の知恵」ではないけれど、音楽家がたくさん集えばまた違った音楽ができる。だからこそ、オーケストラやバンドが機能するわけですが、やはりミュージシャンだけでは限界がある。それで指揮者がいるわけです。でも、オーケストラに指揮者がいるというパターン以外に、ミュージシャンではない誰かがステージにいるのはあまり見たことがない。そういった「特別な存在」として、山本さんがそこにいるんです。ディズニーランドにはミッキーマウスがいないと話にならない、というようなレベルですね(笑)。

実際に共演してみたら、山本さんは「キャラクター」としてもうピッタリなんですよ。期待をはるかに超える「動き」と「歌」とで魅せてくれるわけです。「この人はなんでもできるんだな」と驚きました。例えば、空間で音が鳴り響いたときにできる「間」があるわけですが、山本さんはその間の取り方の魔術師なんです。

――凄いですよね。私は山本さんの歌う〈From Now On〉を拝聴して、その伸びやかな感情表現に圧倒されました。情感がごく自然に歌に乗っていて、まるでその場で曲が生まれたかのようにさえ感じられる、そんな演技と歌唱だったと思います。

僕らは演奏家だから、どうしても「演奏」の範囲を超えられないところがあるんです。今回はアンサンブルがとても上手くいったねとか、さっきのソロよかったねというようなことはあるのだけど、そういった器からは出ていない。どこかにリミットがあるわけです。でも山本さんが来てくれたことによって、僕らは「音楽」という世界に閉じこもっていたんじゃないかって気づけたんです。まさに風穴が開いてしまった感じですね。いやちょっと待てよ、そうやって音楽家を見たこともなければ、演奏したこともなかったぞ、と。「音楽の対極」ではないけれども、彼が表からやってきて、その裏側に僕ら音楽家がはりついていて――そんなことを考えるきっかけになったんです。

――今回のコンセプト文に「対極の中で生まれる音楽。音楽の対極にあるものは」という一節がありますが、その「対極」を意識させてくれた存在が山本さんだったわけですね。

昔から、クラシックだけを演奏している人はポップスの世界のことを知らなさすぎる、もっとポップスの世界を見てごらんよ、とよく言われます。星の数ほどたくさん演奏の巧い人がいて、ふるいにかけられて上ってきた人がいて、もう尋常ではない世界なわけです。もちろん、我々がよく知っているクラシックの世界にも「○○コンクール1位」のような評価軸はあるかもしれない。けれど、音楽はそれだけではない。人の心を打つために、人の前で演奏するために我々が存在するのだとしたら――ふるいにかけられる部分はそこなんです。僕は子どもの頃から長いこと、上手く弾くことだけを目標としてきたんですね。だけどあるとき葉加瀬(太郎)に「そこは一番大事なところじゃないから」ってさらっと言われちゃって。ステージでそこそこ上手く弾けるのは当たり前であって、必要なものが他にもあるんだよ、と。とても大事な話だなと思いました。

だから、どんな人にでもチャンスはある。肝心なのは「自分の使いよう」だと思うんです。今回の場合は、山本耕史というシェフに料理されるにあたって、僕は出し物のひとつとして、ミュージシャンとして光り輝かなければならない、ということになってくるわけですね。これは自分が(クラシックの)「音楽家」だけやっていたら気がつかないところでした。

塩谷哲の大作を枠組みとした豪華プログラム

――今回は豪華コラボレーションによる2度目の全国ツアーということになります。前回からまた一歩、進化/深化した内容になっているのではと思うのですが、いかがでしょう?

前回はあくまでもプロトタイプでした。ミュージシャンがいて、役者がいる。それで何ができるのかとお客さんも僕らも、たぶん山本さんも皆「?」を頭に思い浮かべながら試行錯誤して、何らかの「感触」を掴んだんです。それを受けて、もっとこういうこともできるんじゃないか、と彼(山本耕史)は思ったわけですね。

――山本さんは前回の『ダンディズム・バンケット』の構成について「テレビのザッピングをするような」という表現をされていました。

それ自体はおそらく今回も同じです。ただ、今回の公演に向けた選曲会議で偶然、東京フィルハーモニー交響楽団との共演で先日初演された塩谷哲さんの新曲《Elegy for Piano and Orchestra》を流してみたところ「これいいじゃん!」ということになり、この世界観をバンドでやってみることにしました。これで全体の大きな枠組みが決まったので、あとはそこに細かい曲をどんどんはめ込んでいったのです。大作中の大作かつ、アカデミックなものが骨組みにあって、そこに色々な曲が散りばめられていくという豪華なプログラムです。

――場面が次々移り変わっていく構成は同じでも、今回はかなりしっかりとした柱があるのですね。

極論、何が演奏されてもいいんじゃないかとすら思うけれど、とはいえやはりテーマは必要で、それが今回は《Elegy for Piano and Orchestra》というシンフォニックな曲になったわけですね。これはもう、ばっちりドンピシャに合う、名作です。いわゆるアカデミックな作品ですが、だからこそ余計にいい。『ダンディズム・バンケット』のメンバーは、そういう曲にも対応できる連中ですから。

インタヴュー中の一コマ

――最後に改めて、古澤さんにとっての『ダンディズム・バンケット』とは何か、そこに込められた想いを教えてください。

長年、ミュージシャンという立場で演奏を続けてきましたけれども、その先の世界をいつか見てみたい、その先に何があるんだろうという想いが、常々自分の中にありました。謎の世界――それは宇宙なのかどこなのか、行けるものなら生きているうちに行ってみたいと。本当に僕は子どものときからずっと、音楽会がワンダーランドになったらいいのにって、強く思っていたんです。そしてついに僕の「ミッキーマウス」が現れて、誘ってくれたひとつの新しい世界。それが『ダンディズム・バンケット』なのです。

公演情報

古澤巖×山本耕史 コンサートツアー
Dandyism Banquet Ⅱ(ダンディズムバンケット2)

2024年1月8日(月・祝)16:00開演
東京:人見記念講堂(三軒茶屋)
キョードー東京 0570-550-799

2024年1月12日(金)18:30開演
横浜:関内ホール
キョードー横浜 045-671-9911

その他、全国各地で開催

古澤 巖(ヴァイオリン)
山本耕史(演出・語り・歌)
塩谷 哲(音楽監督・ピアノ)
小沼ようすけ(ギター)
大儀見 元(パーカッション)
井上陽介(ベース)

演奏予定曲:
From Now On(『グレイテスト・ショーマン』より)
ツィゴイネルワイゼン(サラサーテ)
殺しのシンフォニー(『ロックオペラ モーツァルト』より)
レゲトンコンチェルト(サン=サーンス:ヴァイオリン協奏曲第3番第3楽章より)
アランフェス協奏曲(ロドリーゴ)
ほか

公演詳細:https://dandyismbanquet.jp/

古澤 巖オフィシャルサイト:https://www.iwaofurusawa.com/

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