<Review>
モービー
リプライズ
リプライズ
01. エヴァーラヴィング
02. ナチュラル・ブルース feat.グレゴリー・ポーター&アミシスト・キア
03. ゴー
04. ポルセリン feat.ジム・ジェイムズ
05. エクストリーム・ウェイズ
06. ヒーローズ feat.ミンディ・ジョーンズ
07. ゴッド・ムーヴィング・オーヴァー・ザ・フェイス・オブ・ザ・ウォーターズ feat.ヴィキングル・オラフソン
08. ホワイ・ダズ・マイ・ハート・フィール・ソー・バッド? feat.デイトリック・ハッドン&アポロ・ジェーン
09. ザ・ロンリー・ナイト feat.クリス・クリストファーソン&マーク・ラネガン
10. ウィー・アー・オール・メイド・オブ・スターズ
11. リフト・ミー・アップ
12. ザ・グレート・エスケープ feat.ナタリー・ドーン、アリス・スカイ、ルナ・リー
13. オールモスト・ホーム feat.ノーヴォ・アモール、ミンディ・ジョーンズ、ダーリンサイド
14. ザ・ラスト・デイ feat.スカイラー・グレイ、ダーリンサイド
Deutsche Grammophon/ユニバーサル ミュージック合同会社
text by 國枝志郎
輝ける黄色の紋章にも負けない強度
ドイツ・グラモフォン(DG)……綺羅星のようなクラシック・アーティストが挙ってレコードを作り、そのジャケットに輝く黄色の紋章から、「イエロー・レーベル」として親しまれてきたこのレーベルは、90年代までは純クラシック作品専門のレーベルとして大いに気を吐いていたが、21世紀になってその方向性を変化させていく。いわゆる巨匠と言われる演奏家の相次ぐ物故、それに伴う純クラシック・リスナーの減少と、その流れにシンクロするかのように現れてきた「ポスト・クラシカル」というジャンルの台頭を考えれば当然のことのようにも思えるが、その嚆矢となったのがカラヤン/ベルリン・フィルの音源を、デトロイト・テクノのトップ・アーティスト、カール・クレイグとベルリン電子音楽界の大ベテラン、モーリッツ・フォン・オズワルドが「再作曲(Recomposed)」したアルバムだったことは、この老舗レーベルが本気で舵を切ろうとしているんだなと思わせるに十分だった。
その後のDGは、「Recomposed」のシリーズの後、ヨハン・ヨハンソンやマックス・リヒター、フランチェスコ・トリスターノやヴィキングル・オラフソンといったジャンルを横断するアーティストの作品を次々に世に問うようになるが、その最新の成果である本作は、そうはいってもちょっと驚きを隠せない1枚だ。モービー……90年代に『ツイン・ピークス』の音楽をサンプリングしたテクノ・トラック《ゴー》の大ヒットで表舞台に現れたアメリカ人電子音楽家である。これまでにオリジナル・アルバム19枚、シングルは80枚以上もリリースしており、アルバムだけでも2,000万枚以上を売り上げ、グラミー賞に何度もノミネートされる、エレクトロニック・ミュージック界のセレブと言っても過言ではない存在なのだ。しかし、彼がなぜDGから?
キーは2018年10月、モービーのグスターボ・ドゥダメル指揮するロサンゼルス・フィルとの共演でのオーケストラ・デビューだった。その公演を聴いたDGのスタッフが楽屋でこのアルバムの制作を持ちかけたという。モービーはそれを快諾、自身でオーケストレーションを行い、複数のゲスト・ヴォーカリストをフィーチャリングして、ブダペストのオーケストラの演奏でこのアルバムを作り上げた。ヴィキングル・オラフソンの参加や、モービーが親しくしていたというデヴィッド・ボウイの《ヒーローズ》のカヴァーなど、話題には事欠かないが、やはりここで力説しておくべきは、モービーの作る曲の良さに尽きる。テクノとかそういうジャンルは関係なく、彼の曲にはこうした改変に耐えるだけの強度があるのだ。冒頭の《エヴァーラヴィング》が、アコースティック・ギターのアルペジオで密やかに始まるところにまず意表を突かれるし、ヒット曲《ゴー》では、『ツイン・ピークス』の響きに、ウェザー・リポートにも参加したアレックス・アクーニャの素晴らしいパーカッション・プレイが色を添え、ラストの《ザ・ラスト・デイ》まで、オーケストラとゲストミュージシャンが奏でる「モービーの音楽」の素晴らしさに酔うことができる。ジャケットに映るモービーの顔の横に刻印された黄色の紋章は伊達じゃない!