リアム・オ・メンリィ インタビュー
アイルランドと日本、新たな出会いが生んだ
17年ぶりのソロ・アルバム

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リアム・オ・メンリィ インタビュー

アイルランドと日本、新たな出会いが生んだ

17年ぶりのソロ・アルバム

text by 松山晋也

“アイルランド最高のソウル・シンガー”と称えられてきたホットハウス・フラワーズのリアム・オ・メンリィ。去る7月にフジロックのステージに立ったばかりの彼は、年末の『ケルティック・クリスマス 2025』に参加するため再び日本にやって来るのだが、それに先立って、17年ぶりの3rdソロ・アルバム『プレイヤー(PRAYER)』もリリースされた。

2019年から2025年にかけて東京とダブリンで断続的に録音されたこの新作は7曲の伝承曲と4曲のオリジナル曲から成り、チェコの女性シンガーやフランスのサックス&クラリネット奏者、日本の笙奏者など参加メンバーも多彩。そして共同プロデューサーとして、日本人エンジニア岩名路彦の名もクレジットされている。

©︎松山晋也

その瞬間ごとの場のエネルギーを感じて動くのが自分のやり方

――まず、今回のニュー・アルバムの制作経緯について教えてください。

2018年の来日時、長年僕の熱心なファンだというメジャー・レコード会社のサウンド・エンジニア岩名路彦と出会い、何か一緒に作りたいと言われたのが最初のきっかけだった。音楽を通じて新たな出会いとつながりを持てたということだけでも、このプロジェクトは僕にとっては勝利なんだ。

――最初の録音の段階で、それを3作目のアルバムにするつもりだったんですか?

僕はいつもプランを持たない主義なので、そこまでは考えてなかった。最初はただ一緒に録音し、楽しんだだけだった。僕は普段、ライヴのセットリストだって作らない。その瞬間ごとの場のエネルギーを感じて動くのが自分のやり方だし。ボクサーがリングに上がる前に、こうしようああしようと動きを決めていたら絶対に負けるわけで。その時にどう感じ、どう動くかだ。ホットハウスでは40年近く続けてきたし、歌は子供の頃からずっとやってきたわけだが、自分にとって歌うこと、音楽をやることは、ストーリーテラーが毎回違う物語を語るのと同じことだ。

――アルバムに参加しているミュージシャンについて教えてください。まずは、フランスの木管奏者ルノー=ガブリエル・ピオンについて。

ルノー=ガブリエル・ピオンとは最初、トリロク・グルトゥやザップ・ママも参加したギリシャでの即興パフォーマンス・イヴェントで出会った。その後2021年、最初のロックダウンが解除された時にパリに行く機会があったので、彼と一緒に曲を作ってみた。それを路彦に聴かせたら、このプロジェクトに彼も正式に参加してもらおうということになったんだ。僕が東京で録音した音源データを彼に送り、パリでダビング録音してもらった。それがアルバム2曲目の「マイ・ラガン・ラヴ(My Lagan Love)」や6曲目の「女の山(Sliabh Na mBan)」といった曲だね。彼はケルト音楽とは接点がないけど、アラブ音楽に精通しており、何でも対応できる音楽家なんだ。

――プラハでDún an Dorasというグループもやっているカタリーナ・ガリシアは、チェコのシンガーですよね?

うん、住んでいるのはダブリンだけど。彼女の子供と僕の子供が小学校で一緒だったのが知り合うきっかけなんだけど、シンガーとしても人間的にも素晴らしい人で、すぐにいい友人になった。彼女はモラヴィアなど東欧の音楽やジプシー音楽、ギリシャやトルコの音楽等々、学者レヴェルで世界中の様々な音楽に精通している。ガリシアという姓からわかるとおり、父親はスペイン系だ。

――笙の東田はる奈の参加は岩名路彦のアイデアですか?

そうだ。僕は笙という楽器については名前を知っている程度だったんだけど、あの音色は僕の世界とぴったりフィットしたし、このアルバムに欠かすことのできない大事な要素の一つになった。水面で太陽の光がキラキラ輝いているような感じだね。

――幼い頃にあなたと一緒に日本に来た息子のキーアンも3曲でコーラス参加してますね。

ああ、彼ももう29歳だよ。今はボールド・ラヴ(BOLD LOVE)という6人組ロック・バンドでヴォーカルをやっているんだ。

――あなたはアイルランドの伝統文化を父親からたくさん受け継ぎましたが、あなた自身はキーアンにそれを意識的に教えましたか?

僕の父親ほどじゃないけど、赤ん坊の頃からツアーに連れて行ってたので、彼は僕のステージを観て、聴いて、自分なりに学んだはずだ。その実体験が今の彼の音楽活動にも影響を与えていると思うよ。

小泉八雲の「青柳」をテーマにした特別公演

――年末には久しぶりに来日して『ケルティック・クリスマス 2025』に参加しますね。あと、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の「青柳」をテーマにした『〜螺旋の渦〜「青柳」』という特別公演もある。ラフカディオ・ハーンのことは知ってましたか?

うん、「青柳のはなし」が収録された彼の『怪談』という本のことは知ってたよ。偶然だけど、恵子(公演プロデューサーであるプランクトンの代表者・川島恵子)からこの『〜螺旋の渦〜「青柳」』の提案が届いたちょうどその日、たまたま入ったアンティーク・ショップで柳の木を描いた日本の古い絵があったので買ったんだ。その絵もきっと、今回のライヴに何らかのインスピレイションを与えてくれると思う。『〜螺旋の渦〜「青柳」』の具体的な中身についてはまだ詰めきれていないけど、日本の鼓奏者(佃良太郎)やタブラ奏者(ユザーン)も参加するし、ダンサーもいるんだよね。僕も踊ろうかな(笑)。今回のニュー・アルバムの曲もやろうと思っている。

――アイルランドと日本は風土的、精神的に共通点がいろいろありますよね。

うん。最大の共通点は「調和」ということだね。違いもいろいろあるけど、エネルギーというか周波数というか、そういう点で共振する部分がとても多い。だから僕は過去、日本からはたくさんのものを得てきた。日本にはアイリッシュ・ミュージックを愛するリスナーや演奏するミュージシャンもたくさんいるしね。

――2009年の私のインタヴューであなたはこう言ってました。「ケルティック・タイガー時代(90年代末期から00年代にかけてのアイルランド経済大活況期)の狂騒を経て、我々は今、自給自足的な時代に入った」と。その気持ちは今も続いていますか?

あの頃、初めて自分でジャガイモを育てたんだが……2回収穫して終わってしまった。その後もずっと夢の中では自給自足しているんだが(笑)……まあ、気持ちとしては、今も変わっていないよ。作物を作るということに限らず、お金だけに頼ることなく自分たちで身の回りのものを活用しながら生きていくべきだ、と。

――今、音楽ビジネスの世界は非常に厳しい時代になっています。もしロック・ミュージシャンとして稼げなくなった時、昔のようにバスキングで生きていくことはできますか?

もちろん。素晴らしいじゃないか。バスキングは大好きだし、そういう日が来るのが楽しみだよ。街頭演奏では、劇場よりも長い歴史のある音楽というものをシンプルにやれるわけだしね。大きな会場でやるコンサートも素晴らしいけど、道端で流れている音楽に人々が興味を持ち、足を止め、お金を払ってくれるという流れの方がよりピュアだと思う。正確にはバスキングじゃないけど、昨夜もバーに行って、その場にいた日本人の客たちと仲良くなり、歌った。ある客からはうるさいから歌うなと言われたけど(笑)、そういったことも含めて音楽はいつも人との新しいつながり、関係を生む。それが一番素晴らしいことだと僕は思っている。

 

リアム・オ・メンリィ Liam Ó Maonlaí
U2のボノが“世界一のホワイト・ソウル・シンガー”と評した、アイルランドのカリスマ・シンガー。80年代後半にロック・バンド、ホットハウス・フラワーズのフロントマン(ヴォーカル、ピアノ、作詞作曲)として活躍。黒人ソウル・シンガーを彷彿とさせるスケールな大きなヴォーカルで人気を得る。アイルランドの伝統打楽器、バウロンの名手であり、アイルランドのゲール語のシンガー、アイリッシュ・ハープ奏者でもある。バンド活動の傍らソロでも活動。これまでにマリ、インド、チベット、中国、オーストラリアのアボリジニ、ネイティヴ・アメリカンなど、世界中の音楽家と交流。2018年にホットハウス・フラワーズ、2019・2025年にソロでフジロック・フェスティバルに出演した。今年10月末に17年ぶりのソロ・アルバム『プレイヤー』をリリース。

 

公演情報
リアム・オ・メンリィ特別公演 〜螺旋の渦〜「青柳
2025年12月5日(金)19:00
草月ホール

ケルティック・クリスマス 2025
2025年12月6日(土)17:15
すみだトリフォニーホール 大ホール

ケルティック・クリスマス 2025 全国日程
11月29日(土)16:00 ハーモニーホールふくい 大ホール
11月30日(日)16:00 東海市芸術劇場 大ホール
12月3日(水)19:00 兵庫県立芸術文化センター
12月6日(土)17:15すみだトリフォニーホール 大ホール
12月7日(日)15:00  所沢市民文化センター ミューズ アークホール

出演:
シャロン・シャノン with ジム・マレー、キリアン・シャノン
リアム・オ・メンリィ(11/29福井公演を除く)
ザ・ステップクルー・トップ3 with ダン・ステイシー(キャラ・バトラー、ジョン・ピラツキ、ネイサン・ピラツキ、ダン・ステイシー)
クレア・サンズ(ゲスト:12/6東京・12/7所沢出演)特別ゲスト:ポール・ブレイディ(12/6東京出演)

公演詳細:https://www.plankton.co.jp/xmas25/

 

新譜情報
『プレイヤー/ PRAYER (URNAÍ) 』

リアム・オ・メンリィ
2025年10月31日発売
アルバム詳細:https://www.plankton.co.jp/131/index.html

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